投稿論文 研究報告
芸術活動を長年行う自閉スペクトラム症者の自己の語り 現象学的分析による事例研究
石川 千春
1
1東京大学 大学院教育学研究科臨床心理学コース
キーワード:
芸術
,
自我
,
自己開示
,
医療従事者-患者関係
,
日常生活活動
,
抑うつ
,
語り
,
半構成的面接
,
自閉症スペクトラム障害
,
現象学
,
描画テスト
Keyword:
Ego
,
Depression
,
Art
,
Professional-Patient Relations
,
Autism Spectrum Disorder
,
Activities of Daily Living
,
Self Disclosure
,
Narration
pp.385-394
発行日 2023年6月5日
Published Date 2023/6/5
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自閉スペクトラム症(ASD)者は自己理解の困難を抱えると指摘されるが,臨床実践において,ASD者の内的世界を理解することは重要である。昨今,社会的意義が注目される芸術活動には,ASD者の関心や思いが反映されることから,当人の内的世界を見出す可能性が考えられる。そこで本研究では,長年描画を行う一人のASD者に対し,芸術活動を通してどのような自己の理解がなされているかについて,5回のインタビュー調査を含む事例研究を行った。現象学的分析により,その個別性を引き出せるよう文脈に即して意味を探究し,内的な経験の構造を捉えようと試みた。分析の結果,[不自由で生きづらい自己][自由な世界との出会い][ありのままの自己表現][ギリギリの局面からの救い][社会的な受け入れ][芸術活動を通した自己形成]という6つのテーマが生成された。これらのテーマをつなぐ本質的なメインテーマとして,【自己を生かす】が経験の中核にあると見出された。生きづらさを抱え自分を出せなかったASD者が,芸術活動の中で自由な世界と出会い,ありのままの自己表現を行うことによって苦境から自己を救い出す。さらに,作品を通して他者から受け入れられ,自己肯定感を高めて自己形成の感覚を得ているという,自己を生かす構造が示された。デイケア等で芸術活動を実施する機会が増えていることをふまえ,支援に向けた実践的意義にも着目し,芸術活動を介したASD者の自己について考察した。
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