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Genitourinary syndrome of menopause(閉経関連泌尿生殖器症候群:GSM)という用語の誕生は2014年秋に遡る。北米閉経学会(NAM),European Menopause and Andropause Society(EMAS),国際女性性機能学会(ISSWSH),および国際閉経学会(IMS)の機関誌に,腟外陰萎縮(vulvovaginal atrophy:VVA)に関する論文がそれぞれ掲載された1)。この論文は,VVAは閉経期以降の年齢層の女性のQOLを著しく低下させていることを述べ,この重要な課題に取り組むためには,腟と外陰部の粘膜の萎縮という組織学的な理解に加え,これに伴う機能障害を包括する臨床概念を打ち出す必要があることを指摘した。4つの雑誌に掲載された論文は,4つとも同一であった。こうして,GSMという臨床的な概念が世の中に送り出された。2019年にはわが国でも,日本産科婦人科学会がこの術語の正式な和訳として《閉経関連泌尿生殖器症候群》を採択した。この宣言が世に出されるまでには,VVAの診療に深く関わるNAMとISSWSHが2~3年にわたって共同で活動し,VVAの成因と病態,日常生活への影響,診療体制,患者の求めるもの,閉経の影響などに関する会合を重ねたという。新たなエビデンスの提出こそないものの,主要な学会が念入りな医学的検討を経てGSMという病態概念の再確認に乗り出したという点は画期的な出来事であった。公表当時,関係者にはこの用語の指す範囲を閉経年齢の女性の腟と外陰部に起こる種々の病態すべてに広げる方向づけが存在した。しかしながら,骨盤底の支持不全という課題はVVAとは異なる成り立ちであり,独立した重要性を有する。今では骨盤底弛緩に関わるトピックをGSMに含めることはなくなり,GSMの指すものは,腟と腟前庭領域の慢性炎症と萎縮状態および,この状態に伴う腟や尿道の刺激症状に絞り込まれている。診療手順の整理という観点から,今後はGSMという概念を活用することが期待される。かつて下部尿路診療を単純化する目的で導入された過活動膀胱(OAB)という概念は,産婦人科診療からみて使いやすいものではなかったのである。一方,GSMという病態概念をはめ込むことにより,下部尿路症状のある女性の診療において婦人科が責任をもつべきポイントは,1)上皮の炎症と萎縮,2)骨盤底支持,3)内性器疾患による圧迫や牽引の3つに整理され,すっきりしてくる。
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