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今回は2019年下半期に掲載され,研究最前線にいる消化器病医に最もインパクトの大きかった論文を選んでいただき,疾患バランスを考慮して解説をお願いした。最近,東京医科大学教授に就任した杉本光繁教授はH.pylori除菌治療前後の小児腸内細菌叢の変化に関する論文を紹介。すでに類似論文が報告されているが小児感染率の高いベネズエラからの報告でGastroenterology掲載論文である。除菌治療2ヵ月後の除菌小児の腸内細菌叢の変化ではα多様性が増加し,β多様性も非感染小児と同様パターンとなり,H.pylori除菌治療による小児腸内細菌叢の変化に伴う懸念は少なそうである。今後は長期の検討も必要となろう。東北大学消化器内科小池智幸准教授は機能性ディスペプシア患者のin vivoでの十二指腸,空腸粘膜のインピーダンス測定により粘膜障害を生体内で評価したJ Gastroenterology掲載論文を紹介。生体内での評価が可能であることの意義は大きい。予想されたように機能性ディスペプシア患者でのインピーダンス低下から粘膜障害が示唆されているが,患者群と対照群の性比の違い,病型の差違など,検討の余地を残している。兵庫医科大学消化器内科学大島忠之准教授は懸念されていたFMTドナーカプセルの安全性に関わる興味あるN Engl J Med掲載論文を紹介。2症例の症例報告のまとめであるが,ともにドナーカプセルを用いたFMT治療後に多剤耐性大腸菌による菌血症を発症した症例である。本報告はドナースクリーニング強化前のカプセル使用であり,FMTドナーカプセルの安全性に関わる重要な提起である。N Engl J Medは,しばしば1〜2例の症例報告を掲載するが,後に重要な示唆,提起となる論文が多く,本論文も同趣旨と思われる。順天堂大学消化器内科石川 大准教授は従来の大腸がん遺伝子多段階発がんモデルに対応して,腸内細菌叢およびメタボローム解析を加えた挑戦的なNature Med掲載論文を紹介。従来からFusobacterium nucleatumと大腸がんの報告は多いが,他の細菌やメタボローム解析結果の関与も示されている。腸内細菌叢の変化や,それと関連する代謝産物の変化が,大腸発がんに関連する遺伝子の多段階的関与と類似の変化を示すことが,「原因なのか?結果なのか?」。国立がん研究センター東病院消化管内科三島沙織先生は,大腸がん化学療法で治療成績の悪いBRAFV600E変異切除不能・進行大腸がんに対する複数の分子標的薬併用の無作為化第Ⅲ相試験(BEACON試験)成績を紹介(N Engl J Med掲載)。BRAF阻害薬により活性化されるMAPK経路の中心となるEGFR阻害薬の併用による治療の有効性が示されている。発がん機序に関わる複数の標的分子を狙い撃ちする併用分子標的治療が新段階に入ってきたことを明らかにした好論文である。
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