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前号と重複するが,報酬システムとはヒトを含む動物が,その個体を維持し子孫を残すような行動を確実に実行するために,これらに必要な行為を快楽,快感として感ずる脳のしくみを指す。たとえば生きるために必要な食物は美味しいと感じる,異性に魅かれる,性欲などが報酬システムを刺激するものである。なお,高等動物では自身の存在を誇示し,より多くの子孫を残したいという本能が名誉心というかたちで報酬システムを活性化する。報酬システムに関連する行動は,それが快楽と感ずることで,強固な動機付けがなされ,例外なく実行されることが担保されることになる。前号では母性は報酬システムと密接に関わっており,子と接することによりほかの快楽刺激を上回って報酬システムが持続的に刺激され,母性が維持されることを述べた。本来育児は母親にとって喜びを覚え,気持ちが安らぐものであるにもかかわらず,現実には育児放棄・児童虐待の報告例は増加の一途にある。人口が地球の収容能力の限界を超えるに至るほど人類は種としての繁栄を極めてきたが,その原動力ともいえる子への手厚い養育が部分的ではあるにせよほころびが生じている。それには家族構成の変化,共働きの親の増加,教育を含む育児負担の著しい増加,過酷な競争社会を生き抜くための親の疲弊などさまざまな要因が考えられる。直接的には育児放棄・児童虐待は育児により得られる喜びが鈍化しているとも解釈できる。このような視点に立つと育児放棄・児童虐待は何らかの原因で,子への接触が報酬システムを効果的に活性化しない結果であると考えられる1)。本稿では育児の喜びを阻害するさまざまな要因を概観し,その対策を講ずるうえでの参考となればと念じている。
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