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背景と目的
嚥下障害は高齢者や神経疾患患者に高頻度に発生し,誤嚥性肺炎,窒息,低栄養,脱水,QOLの低下といった深刻な結果を招く.特に高齢者では,嚥下障害の有病率が11.4~73.1%に及ぶことが報告されており,地域包括ケアを推進するうえで,早期発見と早期介入が健康維持とQOL向上の重要な課題となっている 1, 2).しかし,嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing;VF)や嚥下内視鏡検査(videoendoscopy;VE)は専門的な機器や技能を必要とし,汎用的なスクリーニングには適さない面がある.
Eating Assessment Tool(EAT-10)は,2008年にPeter Belafskyらによって開発された10項目の簡便な自己記入式質問紙である 3).臨床現場の多忙な状況を考慮して設計されており,患者が短時間(2~5分程度)で記入でき,迅速に採点・解釈・報告が可能である点が大きな利点である.EAT-10は,嚥下障害が生活に与える影響を患者自身が具体的に表現する機会を提供し,ベースラインでの能力,そして治療介入による経時的変化の把握に有用であるとされている.
多言語版での検証も進んでおり,スペイン語,ポルトガル語,トルコ語,日本語版 4)等で信頼性と妥当性が確認されている.近年では高齢者におけるEAT-10活用に関する系統的レビューや科学的意義を検討した報告もあり,評価ツールとしての有用性と限界が認識されている.EAT-10は簡便かつ汎用性の高い摂食嚥下障害のスクリーニングツールであり,適切な対象選定や評価環境の工夫,他の評価との組み合わせを通じて,臨床現場での初期判断や経時的フォローに大きく寄与することが期待される.

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