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中世西ヨーロッパに生まれた大学は,専門家育成コース3学部とリベラルアーツ*1(自由〔のための〕教養)コース1学部,合計4学部で構成されていたという(図1).
リベラルアーツに含まれる7科,なかでも文法学,修辞学,論理学は,わかりやすい論理的思考の基礎であり,学問の基礎である.
中世科学の共通語はラテン語であったという.しかし,いまや21世紀の大学で,外国語としてラテン語を学ぶ機会はきわめて少ない*2,3.
リベラルアーツで身につけるべきは,文章を読み解く技術,目先のスキルではなく,その文章が放つ筆者の世界を共有・共感する感性を育むことである.
人類は直近の百余年の間に2回の世界大戦を経験し,いまなお地球のあちこちで絶え間なく続く愚かな陣地取り.瞬時に尊い生命が大量に奪われていく.
現代医療が必死になって救った命はなんだったのか.愛情や手間や時間を一瞬に台無しにする愚行が,瞬時に被害者を加害者にする.戦争を開始する愚者に告ぐ,「汝リベラルアーツを学べ」.でも,もう遅すぎか.
毎年繰り返される卒業式.学士,博士のタイトル獲得が目的となった人は,大学・大学院で何を学んできたのだろうか.
あちこちで,手段と目的とをはき違え,手段であるべきタイトル獲得が,それを収集することに目的がすり替わってしまっている.小手先のスキルに終始して,高い教養で他者を理解し,共感する教育をしてこなかった教育側に責任はないか.
他者を知る作業に終わりはなく,学問に終わりはない.
いま暮らす社会は,自分という他者の集合である.この社会と,教養を身につける学問と,社会を維持する装置である行政の関係図をつくってみた(図2).
私たちの社会を生物にたとえれば,学問は脳,行政はこころ.
脳は理論で,こころは感性.
生物を動かす脳は,生物のこころと共助の関係.
外の世界から情報を受け取った脳は,こころによって支えられている.
リベアルアーツで鍛えた脳がこころを支え,同時に戦争を戦った脳がこころを壊す.
今年は昭和100年.
よく100年先にはと簡単に言うが,100年先を見越すのは不可能.
せめて30年先の未来を変えることのできる教育に期待する.
30年先の未来を決める教育への期待は大きく,責任は重い.

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