連載 ユニークな実験動物を用いた医学研究・Vol.15(最終回)
クマムシ:極限ストレス耐性のメカニズム
-――ヒトへの応用を展望して
國枝 武和
1
Takekazu KUNIEDA
1
1東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
キーワード:
クマムシ
,
極限環境
,
ストレス耐性
,
乾眠
,
DNA防護
Keyword:
クマムシ
,
極限環境
,
ストレス耐性
,
乾眠
,
DNA防護
pp.799-804
発行日 2022年2月12日
Published Date 2022/2/12
DOI https://doi.org/10.32118/ayu28007799
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Summary
クマムシはさまざまな極限的な環境ストレスに耐性を持つことで知られる動物であり,その耐性メカニズムの解明はヒトを含む他種細胞の耐性強化やバイオ医薬品・有用細胞の乾燥保存,病状進行の抑制など,医療の技術革新につながることが期待される.近年,複数種のクマムシのゲノムが解読され,耐性に適した遺伝子レパートリーが判明するとともに,クマムシにしかみられない固有の遺伝子群が大量に発現して耐性の重要な分子基盤になっていることが明らかになってきた.その多くは特定の構造を持たない天然変性タンパク質で,ストレス依存に細胞骨格様の構造を形成して細胞の物理的な頑強化に寄与するものや,DNAを放射線や活性酸素種から防護するものなど特徴的な性質を持つタンパク質が次々と同定されている.これらの遺伝子を導入することでヒト細胞の高浸透圧ストレス耐性や放射線耐性が向上することも示されており,クマムシはヒトにも応用可能な新規ストレス耐性機構の宝庫であることがわかってきた.
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