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特集 ここまでわかった細胞老化と腫瘍
はじめに
Introduction
笹野 公伸
1
Hironobu SASANO
1
1東北大学大学院医学系研究科医科学専攻病理診断学分野
pp.143-143
発行日 2021年4月10日
Published Date 2021/4/10
DOI https://doi.org/10.32118/ayu27702143
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- Abstract 文献概要
生体内では細胞にDNA損傷などの細胞傷害が生じた際に,腫瘍化や傷害細胞の蓄積を防ぐため,これら傷害を受けた細胞の細胞周期を不可逆的に停止し,生体系から排除しようとする機構が知られている.この現象を “細胞老化” とよび,老化した細胞では種々の特徴的な形態学的変化(細胞質の膨化や空胞化など)や,ミトコンドリアを主体とした細胞内小器官の機能不全が生じることが示されてきた.
一方,上記の老化した細胞はSASP(senescence-associated secretory phenotype)ともよばれており,種々のサイトカインやケモカインなどを誘導することで免疫細胞を動員し,炎症を惹起することが報告されている.加齢とともに酸化ストレスなどの細胞傷害を引き起こすストレスへ長期間曝露されることでSASPが発生し,それに起因する慢性炎症が蓄積することから,悪性腫瘍や変性疾患,循環器疾患などの数多くの加齢に伴い増加する疾患の病態との関連性,すなわち,細胞と個体レベルの老化現象の関連性が提唱されてきた.しかし一方で,細胞傷害を引き起こすストレスへの曝露,およびその結果としてのSASP状態の持続はかならずしも加齢性変化と関連するとは限らない.このことから,個体の老化に伴い老化現象を生じる細胞数は増加する傾向にはあるものの,個体と細胞レベルでの老化は別の次元で考えるのが望ましい.
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