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私は観察するのが好きだ.診察室に患者さんが入室したとき,その姿や雰囲気,表情(とくに眼の奥から発せられる)などから“感知”できる情報には,これまでの背景や受診に対する思い(姿勢)が表れる.自分なりの観察眼で,患者さんの求めるところを“想定”し,声かけや説明の仕方などの対応を微妙に変えながら診療する.そして,帰り際の表情から,自分の診療の“結果”を頭の中でフィードバックする.この過程は意識すると楽しいものである.
皮膚生検もある意味同じである.皮疹の性状から病理組織像を想像し,結果を確認する作業はクイズのようでとても楽しい.炎症性・免疫疾患における皮膚生検では,採取場所や時期,治療の有無で結果は変わってくる.何を目的とする生検なのかが大切であり,それによってどこを狙うかの選定が一番重要である.たとえば点状紫斑の症例でIgA血管炎を疑う場合,典型的LCVを確認したければ,早期病変よりは,完成した触知性紫斑を狙う.IgA沈着を確認したければ,より早期の淡い平らな紫斑を選んだほうが,陽性率が高い.2カ所それぞれ目的の結果が出たときにちょっとした満足感がある.PNや皮膚動脈炎,ANCA関連血管炎などを疑う場合はさらに気合が入る.livedoの中に有痛性で浸潤性の暗紫紅色斑が混在しているとき,ど真ん中を狙う.経験的に外顆周囲や足内外側縁のこのような皮疹は綺麗な血管炎が出やすい印象がある.入院患者は臥位でいることが多いので,下腿の生検前には,5~10分程度は足を下げて座ってもらっておく.寝ていてはみえなかった皮疹が明らかになり生検すべき場所をみつけやすい.淡いlivedoのみの場合,真皮下層から脂肪織の血管に綺麗な血栓をみつけることが多いが,ときに予想を超えた壊死性血管炎がみつかることもある.血管炎は全身性か局所性か,腎病変はあるか,CRPやESR,D-dimerの値はどれくらいかなどを参考に,マクロとミクロをつなぎ,皮膚から全身をみる皮膚科はやはり楽しい.一方,尋常性乾癬の生検をする場合,何を目的に行うのか.棍棒状表皮肥厚,錯角化,Munro微小膿瘍など教科書のような病理組織像が揃うのは,誰もがみてわかるような治療前の局面型乾癬の臨床像のときであり,診断のために生検する意義はない.治療経過中の乾癬を生検して,結果はよくある乾癬様皮膚炎.これも臨床診断はやはり乾癬だ.一方,臨床的に皮膚リンパ腫との鑑別や乾癬型薬疹を疑う場合には生検も有用である.
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