- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
掌蹠膿疱症はheterogeneousな疾患である.これが治療法の確立を阻んできた.まず,発症契機がheterogeneousである.とくに喫煙と病巣感染が直接治療に結びつくものとして重要であるが,ほかにも多くの併存疾患が列挙される.一方で,これらがまったく見出されない例もある.掌蹠膿疱症は本邦に多く,これまで病巣治療の有効性に関する多くの報告がなされてきた.それらを並べてみて気づくのは,扁桃摘出術の有効性も,歯科治療の有効性も,喫煙率も,その多くが約80%という奇妙なデータである.報告内容を詳細にみてもおのおのが信頼しうる臨床研究であり,扁桃摘出を選択しても,歯性病巣がある場合は歯科治療を選択しても,約80%が軽快するということになる.これに歯科金属アレルギーの関与がどの程度あるのか,病巣感染や金属アレルギーが関係しない例は何が原因か,これら治療選択が皮疹寛解後の再発率に影響するのかを明らかにするため,発症誘因の併存率とそれを治療した際の有効性について,自験例の経過を可能なかぎり追ってきた.原因治療後の経過を1年以上追った自験238例1),自験513例2)で(図),後者では副鼻腔炎を全例に問診するようになったこと,腸症状改善に伴い掌蹠膿疱症が改善した群を新たに追加したこと,複数の感染病巣を有する例を分けてグラフ化したこと,金属アレルギーが関係する例では全例で皮膚生検を施行し病理組織学的に掌蹠膿疱症の診断を確認したことなどの違いがあるが,両集計ともに掌蹠膿疱症患者の約80%に感染病巣があり,その8割で病巣治療有効である.なお,扁桃摘出術を行う前に他の要因の除去を行ったために扁桃病巣感染の割合が少ないが,過去の報告から,すべての例にまず扁桃摘出術を施行した場合にも約80%の有効率を示すと推測する. この複数の病巣が重複する関係を考えるには,扁桃と周辺組織からなるワルダイエルリンパ輪の働きと支配を理解する必要がある.扁桃は唯一,外界と直接接して外来病原体に対する免疫反応を担うリンパ腺であり,輸入管や輸出管をもたず,上咽頭から扁桃,咽頭に至るワルダイエルリンパ輪の中心的役割を果たす.よって,扁桃が外来病原体に対する炎症におけるeffector cellの主な供給源である可能性が考えられる.さらに扁桃は,鼻腔粘膜から始まる呼吸器,扁桃,咽頭,甲状腺,胃腸管などを含めた粘膜関連リンパ組織(mucosa associated lymphoid tissue:MALT)の一部であり3),これらが免疫学的に関連性をもつのであれば,花粉症の時期や自己免疫性甲状腺炎の悪化時に掌蹠膿疱症および掌蹠膿疱症性骨関節炎の症状が悪化する現象を説明できるかもしれない. 一方で,これもわが国の研究により4),小水疱から膿疱に至る掌蹠膿疱症の皮疹形成はIL-23/IL-17軸の炎症が関与すると考えられ,本邦の掌蹠膿疱症患者を対象とした二重盲検試験を経てIL-23拮抗薬の承認につながった.乾癬と異なり,IL-23拮抗薬は掌蹠膿疱症の皮疹を非常にゆっくり,しかし有意差をもって,しかも安全に改善させる5).掌蹠膿疱症は,全身の皮膚のたった4〜5%に生じる膿疱症であり,自然軽快もあるが,発症契機が他臓器にあることが多く,感染病巣を放置した場合,皮疹軽快後にも脊椎炎が進行する例がしばしばみられることから,全身性疾患と捉えるべきであり,併存疾患の理解と位置づけは重要である.掌蹠膿疱症の併存疾患について,もう1つの主要症状である掌蹠膿疱症性骨関節炎,発症や症状悪化に関わる疾患や状態,合併しうる注意すべき疾患に分けて述べる.(「はじめに」より)
Copyright © 2019, KYOWA KIKAKU Ltd. All rights reserved.