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水自己免疫性水疱症の発症機序は,1)自己抗原,2)リンパ球,3)水疱形成,の3段階のそれぞれにおいて,病態の解明に向けた研究が続けられてきた.自己抗原の決定によって,記載皮膚科学に基づく水疱症の分類が見事に裏づけられただけではなく,最近では標的自己抗原の探索によってほとんどの疾患が機能的に分類され,より適切な治療提案がなされるまでになった.自己反応性リンパ球の活性化なしには自己抗体の産生はおこらない.天疱瘡の動物モデルでは,発症の十分条件となるCD4陽性Tヘルパーリンパ球クローンの樹立に成功している.しかしながら,なぜ,特定の個人においてのみ,表皮の特定の抗原に対する免疫寛容だけが選択的に破綻するのか,それがどの段階における破綻なのか,なぜ他の免疫応答ではなく抗体産生に向かうのかは,いまだに明らかではない.水疱形成の機序について,永年,一連の動物モデルでの実験結果を根拠に,天疱瘡では補体や顆粒球に依存しない,類天疱瘡では補体や顆粒球に依存する,と理解されてきた.一方で,類天疱瘡でも補体に依存しない水疱形成機序が働く可能性が,培養細胞や実験動物)を用いた実験結果によって示唆されてきた.しかしながら,ヒトでは,表皮基底膜領域の補体の活性化は臨床的にも類天疱瘡の診断の大きな根拠であり,補体の役割を疑う根拠となる情報を欠いていた.われわれは,基底膜領域での補体の活性化を伴わない水疱性類天疱瘡の2例を経験した.その2例のいずれの自己抗体も,補体を活性化する能力の乏しいサブクラスであるIgG4が優位であり,また特徴的な臨床像を示した.本稿では,水疱性類天疱瘡における補体の役割について,天疱瘡との比較において皮膚科学の発展の歴史をたどるとともに,補体の関与の度合いが水疱性天疱瘡の臨床的多様性を生み出す可能性について考えを述べたい.(「はじめに」より)
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