特集 常在微生物叢と小児疾患~腸内細菌叢の先にあるもの~
各論 腸内細菌叢と小児疾患との関係 消化器疾患
便秘,下痢,機能性消化管疾患
佐渡 智光
1,2
,
中山 佳子
1,3
SADO Tomomitsu
1,2
,
NAKAYAMA Yoshiko
1,3
1信州大学医学部小児医学教室
2理化学研究所生命医科学研究センター共生微生物叢研究チーム
3信州大学医学部保健学科
pp.1035-1038
発行日 2025年8月1日
Published Date 2025/8/1
DOI https://doi.org/10.24479/pm.0000002513
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はじめに
われわれが生活している環境中には無数の微生物が存在し,それはヒトの体表も同様である。腸管は体内であるが,外環境にさらされている器官であり,多くの微生物が共生的に住みついている。ヒトの消化管には1014個に及ぶ細菌が存在するが,その半数以上が難培養菌で,最新の培養方法を用いてもいまだ分離が困難である。16SリボソームRNA(16S rRNA)を標的とした分子生物学的解析により,ヒトの腸管内には,1000種以上の腸内細菌叢が存在していることがわかった1)。腸内細菌の99%以上がFirmicutes,Bacteroidetes,Proteobacteria,Acinetobacteriaの4つの門に属しており,このうちFimicutes門が60%,Bacteroidetes門が20%を占める2)。とくに小児期はその定着と成熟が進む決定的な時期であり,小児期における適切な栄養と環境は,長期的な健康と疾患予防に重要な影響を与える3)。宿主であるヒトは腸内細菌に栄養と住環境を提供し,腸内細菌は多彩な代謝機能により宿主へのエネルギー源の補給を行う。腸内細菌はエネルギー摂取に必須であり,これは,ヒトが保有していない,食物からのエネルギー摂取にかかわる酵素を腸内細菌叢が備えていることに起因している。また,近年,腸内細菌がさまざまな疾患に大きな影響を及ぼすことが解明されてきている。

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