連載 記憶に残る症例(22)
記憶に残る患者さん達
足立満
1
Mitsuru Adachi
1
1国際医療福祉大学臨床研究センター教授/山王病院アレルギー内科
pp.1806-1811
発行日 2015年11月15日
Published Date 2015/11/15
DOI https://doi.org/10.20837/3201512120
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30年以上前,喘息の治療は悲惨であった。これから私が記述する患者さん達は現在の吸入ステロイド薬(ICS)やICS+長時間作用性β2刺激薬(LABA)などが存在しない時代の喘息治療の結果であり,現在ICS,ICS+LABAといった喘息治療の第一選択薬があたり前になっている若い人達に,昔の喘息治療がどんなであったかを知ることにどれだけ意味があるのか自問自答してみた。現在喘息による死亡は主要疾患の中でも最も減少し,その治療成績は最も優れていると考えられている。一方喘息患者の新患での治療継続率は1年後にわずか10%台という国内外のコホート研究も存在する。 私が30年以上前に診察した患者さん達は重症症例が多かったので単純に比較はできないが,現在でもICS,ICS+LABAを用いていてもアドヒアランスや吸入手技の不良のために重症となっている患者さんは決して少なくない。またそれらが正しく守られていても重症喘息の患者さんは一定数確実に存在する。また多くの疫学データでも現在の多くの喘息患者のコントロールレベルは我が国のガイドラインの目標としている「症状が無く健康な人と全く同じに生活できる」というレベルからはまだまだ遠いという現状から考えて,30年近く前多くの喘息患者さん達が苦しんだ状況を記述することは決して意味の無いことではないと考え,以下私の記憶に残る患者さん達のことを書かせて頂く。