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抗菌薬適正使用支援プログラム(Antimicrobial Stewardship Program:ASP)は抗菌薬処方の適正使用を推進するための組織的な取り組みのことである。多くの日本人にとって,この「stewardship」という単語だけからそこに込められた意味を理解することはきわめて困難である。これまで多くの専門家は不便と感じながら,「スチュワードシップ・プログラム」と舌を噛みながらカタカナ読みで説明をしてきた。 *「steward」は男性の客室乗務員あるいは馬術競技ではレース中の違反行為について判定を行う審議委員のことである。「steward」の語尾をstewardess(女性の客室乗務員)にしてみるとわかりやすいかも知れない。 2016年4月,抗菌薬の適正使用に向けた8学会提言:「抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship:AS)プログラム推進のために」が公開された(日本化学療法学会雑誌64(3):379-385,2016)。関連団体が統一した「抗菌薬適正使用支援」という日本語訳で統一することにより,今後は用語による混乱を避けることが出来,大変喜ばしい。この提言の中には「早急に我々がすべきこと」として,① 全国の医療機関にASチームを組織する,② 人的・物的資源を整える,③ 標準的なプログラムを定める,④ 実施に対する対価を設定する,⑤ 人材を育成する,⑥ 効果の評価と情報公開の6項目が掲げられている。「抗菌薬適正使用支援」を運用する上で必要な人・お金・物を束ね,各医療機関でASに取り組みやすい環境を構築する必要についての提言である。感染症治療の際の従来の主治医による「検査・診断・治療」に加え,「AS」という第三者による連携で至適化された治療プログラムは不必要な投薬(ひいてはそれによる有害事象)の回避や適正な抗菌薬処方による耐性菌の抑止が期待される。 ASプログラムは医師・臨床薬剤師や臨床検査技師(施設によっては看護師も加わる)と多職種で抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)を構成する。急性期病院においては「抗菌薬適正使用支援」を必要とする患者さんは多く,業務量を考慮した適正な人員配置が必要である。診療報酬点数設定の際の加算要件には,こうした点にも配慮されることが望まれる。わが国における感染症専門医数の不足は顕著であり,当然,インフェクションコントロールドクター(Infection Control Doctor:ICD)あるいは日本化学療法学会認定の抗菌薬化学療法認定医・指導者資格制度等,関係する緒資格制度の中での人材育成制度の充実が必要となる。ASにおいては臨床薬剤師の方々の現場力が期待される。