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年末年始に自宅でスター・ウォーズシリーズを久しぶりに観た。過去のシリーズ作品がテレビ放映されるのは新作が封切りされる前のお約束である。スター・ウォーズシリーズではフォースのライトサイドとダークサイドが描かれているが,この2つの側面を対立と取るのか表裏一体と取るのかは受け手の捉え方次第だと思う。 本原稿を執筆中の2016年3月現在,ジカウイルス感染症のニュースが世界中を駆け巡っている。ついこの前まではエボラ出血熱,そして中東呼吸器症候群(MERS)が話題の中心であったが,有史以来,感染症流行の事例は枚挙にいとまがない。感染症が他の疾病と決定的に違うところは“微生物”の存在である。悪性腫瘍や脳血管障害など多くの疾病が内的要因に左右される一方で,感染症には“微生物”という外的要因が必ず存在する。 パスツールやコッホが病原微生物を見つけて以来,多くの培養可能な病原微生物が認知されてきた。近年は16S rRNAや次世代シーケンサーの登場により,培養に頼らず遺伝子を標的とすることで,迅速に,そして今まで培養できなかった微生物まで検出することができるようになった。特に暗黒の世界であった腸内細菌叢が解明されるようになり,腸内細菌が炎症性腸疾患や大腸がんなどの消化管疾患から,非アルコール性脂肪性肝炎,肥満,糖尿病,動脈硬化などの疾病と関連していることが報告されてきた。もしかすると,近い将来,すべての疾病は微生物が関与しているということになっているかもしれない。一方で,腸内細菌叢は消化吸収や免疫賦活化など生体に欠かせない役割を担っている。近年は,クロストリジウム・ディフィシル感染症に対して健常人の糞便(腸内細菌叢)を注入する糞便移植療法が劇的な効果を示し,治療として用いられている。 ウィリアム・H・マクニールは著書「疫病と世界史」(佐々木昭夫・訳)の中で,宿主と寄生体のあいだの均衡なるものは人類の永久に変わらぬ姿であると主張し,「人類の出現以前から存在した感染症は人類と同じだけ生き続けるに違いない。そして,その間,これまでもずっとそうであったように,人類の歴史の基本的なパラメータであり,決定要因であり続けるであろう」と述べている。 抗菌薬の出現により一時は制圧されたと思われていた感染症は,20世紀の終わり頃から進化を遂げ,ふたたび我々の前に姿を現している。我々にとって,微生物はこれからもファントム・メナス(見えざる脅威)であり続けるが,これまでの対立という構図から,共存共栄できるような方法を見つけていくことが,次の世代に課せられた責務ではないかと思う。