特集 先制医療が切り拓く新たな地平~ライフコース・ヘルスケアの確立を目指して~
5.糖尿病のためのライフコース・ヘルスケア
福島光夫
1
,
井村裕夫
2
1京都大学医学部附属病院 先制医療・生活習慣病研究センター・特定教授
2京都大学名誉教授/公益財団法人先端医療振興財団名誉理事長
pp.2065-2072
発行日 2017年9月1日
Published Date 2017/9/1
DOI https://doi.org/10.20837/1201709083
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厚生労働省の調査によれば,糖尿病の可能性を否定できない者は2012年の統計で初めて減少に転じた。だが,糖尿病が強く疑われる者は,今なお増加の一途をたどっている。2型糖尿病は,インスリン分泌低下とインスリン抵抗性によって引き起こされる。民族間でフェノタイプを比較すると,日本人にはインスリン分泌低下型,食後高血糖のタイプが多く,欧米人は日本人よりインスリン抵抗性型,空腹時血糖値上昇のタイプが多い。糖尿病と関連する数多くのSNP(一塩基多型)が明らかとなり,これらがインスリン分泌低下やインスリン抵抗性を起こすことも示されている。オランダ飢餓の冬研究や一卵性双生児の研究から,胎児期の子宮内環境が,成人後の糖尿病発症に関与していることを示す知見も得られている。境界型からの薬物介入が糖尿病発症を抑制する知見が報告されつつある。先制医療は,個体の持つ情報を精度高く評価し,各個体の特徴に合った予防や治療を行うものであり,日本人の病態や,個体の遺伝子・エピゲノム情報に注目した糖尿病予防戦略は,先制医療の一つになるであろう。