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はじめに
トラネキサム酸(tranexamic acid:TXA)は人工心肺を用いる心臓手術で広く使用される抗線溶薬であり,術後出血量および輸血量を減少させることが報告されている1)。一方で,TXAの使用は用量依存性に術後痙攣のリスクを増加させることが知られている2)~5)。整形外科などの一般外科手術ではTXA 10-20mg・kg-1の単回静注で出血量軽減が得られるが,人工心肺手術ではより高用量かつ持続投与する方法が一般的である6)~8)。しかしZuffereyら9)による薬物動態モデルに基づいたメタ解析では,TXA総投与量が20mg・kg-1であっても心臓手術において術後出血および痙攣の双方の減少に十分であることが示された。TXAの排泄は患者間で差が大きいことを考慮すれば10),TXAの臨床使用時に薬効モニタリングを導入することは合理的である。しかし,TXA濃度を測定するための検査は臨床では利用できないため,それが出血リスクの高い症例において結果的に同薬が過量に投与されている可能性が推察される11)。
TPA-testは血液粘弾性装置であるClotPro(Haemonetics社,ドイツ)で開発された,高濃度の組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:tPA)を用い,in vitroに線溶反応を活性化させる血液粘弾性検査の一種である12)~14)。アプロチニンやTXAを用いて線溶状態を評価する従来法と異なり,TPA-testはtPA誘発性の線溶反応を評価するものであり,TXAの生体内での薬効をベッドサイドで簡便に定量化させることを目的としている15)。心臓手術患者を対象とした先行研究では,TPA-testの測定パラメーターが術後の血漿TXA濃度を間接的に反映することが報告された13)。さらに手術中に高用量TXAを投与した場合,その抗線溶効果は術後2-3日間にわたり継続することも示されている。TXA関連合併症を防ぐためにはTXA投与方法の最適化が望ましいが,低用量TXAを投与された心臓手術患者におけるTPA-testの有用性はこれまで明らかでなかった。
われわれはTPA-testを心臓外科周術期のTXAの薬効評価に応用可能であると仮定した。この仮説を検証するため,健常者および人工心肺手術患者から得られた採血検体をもとに,低用量TXAがTPA-testに及ぼす影響を明らかにした。

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