Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
サージカルスモークは,電気メスや超音波凝固切開装置,レーザーなどのエネルギーデバイスを用いて生体組織を焼灼・凝固・切開する際に発生する,煙霧状のエアロゾルの総称である。微小粒子状物質(particulate matter:PM)や揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOCs),多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs),細胞の断片,さらには生きたウイルスや細菌を含む可能性のある,有害混合物であると報告されている1)。
本研究の筆頭著者(以下,筆頭著者)自身,サージカルスモークへの曝露が咳喘息を増悪させる深刻な問題を経験した。ひとたび咳の発作が始まると息苦しさと胸の痛みを感じ,夜も眠れなかった。また,手術に支障が出るのではないか,外科医としてやっていけなくなるのではないかという恐怖感を抱いた。
この個人的な体験が,本テーマを深く探求する直接の動機となった。2015年には,サージカルスモークの健康リスクを広く外科医に共有したいと考え,Surgery Today(日本外科学会英文誌)にレビュー論文を発表し,問題提起を行った1)。しかし当時,日本国内におけるサージカルスモークについての関心は乏しかった。多くの外科医は,サージカルスモークを “術野を妨げる邪魔もの” と認識していたものの,健康リスクは念頭になかったようである。実際,2019年に筆頭著者が日本外科学会定期学術集会においてサージカルスモークに関する発表をした2)際にも “サージカルスモークが健康に悪いなんて初めて知った” “サージカルマスクで十分ではないか” という反応が多く聞かれた。一方で,上記レビュー論文に興味をもって筆頭著者に連絡してくださったのが2人の麻酔科医師であったことは象徴的である3)。
このように長らく見過ごされてきた状況を一変させたのが,2020年に世界を席巻したCOVID-19(coronavirus disease 2019)パンデミックである。エアロゾルを介したウイルス伝播の懸念が世界的に高まるなか,サージカルスモークがSARS-CoV-2の潜在的な感染経路として急速に注目されることとなった。

Copyright © 2025 KOKUSEIDO CO., LTD. All Rights Reserved.

