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2004年初春のある日,とんでもない論文がある英文誌に投稿されてきた。“MR Diffusion PETgraphy” と銘打った技術のtechnical noteである。私は当時新任編集委員で,decision未定のこの論文の編集を引き継いだのであるが,それまでに寄せられていた2名の査読者からは,辛辣な評価がなされていた。曰く,“PETgraphyという用語は不適切!”,“理屈はわからないけどやってみたらこうなったという,浅いレベルの経験が述べられているに過ぎない” などである。さて,論文の主旨をよく読むと,躯幹部の拡散強調像は現在息止めでやっているからSNR(signal-to-noise ratio)が低い。自由呼吸下であれば,撮像時間を気にせず広範囲も撮影できるし,加算回数を増やせば,SNRは向上し,薄いスライスも撮影できるので,z軸方向の空間分解能も向上するというものであった。そして,背景脂肪の均一な抑制のためにEPI(echo planar imaging)diffusionにSTIR(short T1 inversion recovery)を組み込んでいる。本来,拡散強調像は,水分子のブラウン運動の多寡を信号に置き換えている。動きの少ない頭部の拡散強調像ですら,navigator echoを使ったり,ECG(electrocardiogram)gateをかけたりと,動きの制御に研究者は躍起になっていた頃である。動きにはそれほど気を使うのに,呼吸運動下で拡散強調像というものが,そもそも成り立つのであろうか? しかし,すぐれた発明や発見はしばしば既成概念を疑うところから得られるものである。そして,私はなにごとも,自分の目で確かめないと気が済まない性であったので,業務終了後のある晩に,勤務先の病院のMR装置で,その論文のコンセプトに則って,類似のシーケンスを組んでボランティア撮影を行ってみた。すると,自由呼吸下であるにもかかわらず,脾臓,副腎,リンパ節,骨髄など,通常拡散制限を受ける臓器が比較的きれいな信号を残して描出された。通常の息止め撮影とは比較にならない画質である。追試で同じ結果が出るというのが,科学論文で最低限の条件であり,それはクリアされたということであった。私は,これはすごい発明・発見だと直感した。そして,“この論文は一刻も早く世の中に知らせるべきである” と思い,編集委員会でご承認をいただいて,査読・校閲を引きとった。その後,かなり頑な著者とのやり取りの末,タイトルも変更していただき,revision 4でなんとか掲載してもよいだろうというレベルに漕ぎ着けたときは,自分の論文でもないのに,心底ホッとした。
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