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国家試験を無事終え,私は母校である埼玉医科大学皮膚科に入局をした。皮膚科にどうして入局をしたのか? とよく聞かれることがあるが残念ながら入局理由に明確なものはなく,強いて言えば学生時代に属していた部活の先輩が数人いたからというのが答えという,あまり褒められた動機ではないなあ……という感情のまま皮膚科医生活が始まった。私が入局した当時の埼玉医大皮膚科は池田重雄教授の教えのもと,皮膚がん診療にもっとも力を注いでいた教室ではないかと実感している。皮膚がんに対する手術治療や薬物療法の基礎,ダーモスコピーでの診断,エコーでの腫瘍内血流のチェック,センチネルリンパ節生検術などの現在の臨床では必要不可欠なツールの手技や考え方も埼玉医大にて存分に叩きこまれ現在の基礎になっていると自負している。皮膚がん診療をもっと深掘りできないかと考え始めた頃に静岡県立静岡がんセンターが開院する,そしてその開院メンバーとして赴任しないかとの話を2001年の秋頃にいただいた。がんセンターでのレジデント経験もない私に務まるのだろうかと不安であったが,自分の道はここと決め門を叩いた。静岡がんセンターは2002年4月に静岡県駿東郡長泉町に開院した。実際の診療は9月から開始であったが,約5カ月間は診療マニュアル作りなど新しく診療の流れを作るという,とても貴重な体験を得ることができた。静岡がんセンターはわれわれ皮膚科を含め35の診療科,ベッド数630のがん治療専門施設である。開院当初からのポリシーとして掲げているのはチーム医療である。多科にわたり治療方針を立てる必要がある症例においては,医師だけではなくコメディカルを含めたチームを症例ごとに形成し,主治医という概念をもたずカンファレンスを頻回に開き,意見を出し合いながら方針を決定し治療を進めるという,大学病院ではあまり経験のできなかったシステムを静岡がんセンターにて初めて経験した。この考え方が現在でももちろん継続されており,科同士の垣根の低さもこの考え方から生まれていると考える。静岡がんセンターは2022年で開院20年目となった。通常臨床は言うまでもなく,ゲノム医療が大きなウェイトを示す現在の医療においても中核病院を担うのみではなく,当院独自の全ゲノム解析研究も着実に進んでいる。これからも本院ががん治療における中心施設として歩んでいくことを支えていきたいと考えている。
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