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背景
網膜色素変性は,確立された治療法が存在しない難病である。そのため,患者側が求めている医療や心理的援助を含むケアのあり方を検討することが重要であるが,網膜色素変性患者の眼科医療における経験とその生活実態に焦点を当てた先行研究はほぼ存在しない。
目的
網膜色素変性患者の眼科医療における経験,および生活の実態とその心理・社会的状況を明らかにし,患者の経験に即した支援体制の構築に資するデータを収集する。
対象および方法
網膜色素変性患者を対象にWebによる無記名自記式質問票調査を行った。調査実施の周知は患者会のメール等による口コミ,SNS(Social Networking Service)による拡散によって行い,回答端末はパソコン・タブレット・スマートフォン・ガラケーと呼ばれる旧来型携帯電話のいずれからも可能とした。質問票ページは白黒反転機能や質問項目の自動読み上げ機能を組み込み,回答の利便性に配慮した。患者から得られた回答190件(回答数195件,有効回答数190件,有効回収率97.4%,性別の内訳は男性44.7%,女性55.3%)を分析対象とした。
結果
網膜色素変性患者の日常生活においては,外出時に暴言などの被害を受けた経験や,駅のホームから落ちそうになった経験など,さまざまな危険と隣り合わせであることが明らかになった。眼科医療においては,患者の心情や困難に対する理解や配慮が十分でない場合があることが示された。また,「社会福祉制度全般」「ロービジョンケア」「生活に役立つ道具や移動時に役立つ具体的な方法」などについて十分な情報提供がなされていないと患者に感じられている現状が明らかとなった。
結論
本調査で明らかになった網膜色素変性患者の心理・社会的状況に対し,医師・医療スタッフが理解を深め,支援体制を改善・構築していく必要がある。具体的には,活用可能な社会資源に関する情報提供の準備や,情報伝達の実現に向けての工夫,コミュニケーションスキル向上のための機会の確保等が望まれる。
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