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角膜は上皮,実質,内皮の3層構造で,角膜輪部に存在する角膜上皮幹細胞が角膜上皮の恒常性の維持に重要である。無虹彩症などの先天性疾患,熱傷・化学傷などの外因性疾患,Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの内因性疾患によって,角膜上皮幹細胞の機能が消失または低下すると,角膜上皮幹細胞疲弊症(limbal stem cell deficiency:LSCD)となる(図1,表1)。LSCDに対する角膜上皮再建治療は消失した角膜上皮幹細胞を外部から供給し,角膜表面を透明上皮で再建することである1)2)。既存の治療法として自己角膜輪部移植,同種角膜輪部移植およびヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シートがある。しかしながら自己角膜輪部移植では,移植片として患者自身の僚眼から広範囲の正常角膜輪部組織を採取する必要があり,両眼性LSCDでは採取する正常角膜輪部組織が存在しないことから適応とならない。また同種角膜輪部移植では,移植後に高頻度で発生する感染性角膜炎や拒絶反応のために長期成績は不良である。さらに,角膜は日本を含む多くの国において深刻なドナー不足の状態に陥っており,同種角膜輪部移植がしにくい状況にある。ヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シート移植については患者自身の僚眼からごく少量の正常角膜輪部組織を採取することができれば治療することが可能だが,原料となる角膜輪部組織の採取が困難な患者や角膜輪部への侵襲を回避したい患者に対しては使用できない。これらの背景からLSCDに対する新たな治療選択肢の開発が望まれていた。ヒト(自己)口腔粘膜上皮由来細胞シートは,同種輪部移植における拒絶反応の問題,ドナー不足の問題,採取可能な角膜輪部が残存する必要性の問題を解決することができる。ヒト(自己)口腔粘膜上皮由来細胞シートによって,角膜輪部組織を採取する必要があった従来の移植法とは異なり,角膜輪部ではない口腔粘膜組織から移植用の上皮細胞を用意することが可能となった3)。
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