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ドライアイは2016年に診断基準が刷新されて表1のようになり,①ドライアイの自覚症状と,②涙液層破壊時間(tear break up time:BUT)の短縮(5秒以下),この2項目でドライアイとして確定診断できるようになった1)。すなわち眼表面における涙液層の不安定化こそがドライアイの病態生理を考えるうえで最も重要といえる。この病態生理を意識しながら涙液層の不安定化の改善を目指す治療方法がTFOT (tear film oriented therapy,図1)である2)。TFOTはドライアイ診断基準が改定されると同時にドライアイ研究会から提唱されたドライアイ治療の新しい概念である。まず正常な涙液層を認識しなければならないが,最表層に油層があり,その下には液層が存在し,現在では涙液層は二層構造と考えられている。特に液層には涙腺から分泌した水分,分泌型ムチンMUC5ACなどが溶解しており,さらに眼表面の恒常性を考えるうえで重要なビタミンAやEGF(epidermal growth factor)と呼ばれる成長因子も含まれている。このように涙液層は上皮細胞上に常に存在しながら,上皮細胞の恒常性維持を支えるうえで重要なサポート役を果たしている。また上皮細胞の最表層には微絨毛(microplique)というノコギリの歯のような無数の突起が存在している(図2)。微絨毛の上には膜型ムチン(MUC16など)が大量に発現しており,膜型ムチンの糖鎖に接合するガレクチン3という蛋白とともに,グライコカリックスバリアという眼表面最表層のバリアを形成しつつ,眼表面の水濡れ性にも大きく寄与している(図3)3)。このようにさまざまな因子が複雑に絡み合いながら,眼表面上で涙液層は安定性を維持していると考えられているが,特にドライアイ点眼治療で安定した涙液層の回復のために重要なのが,①液層における水分量の維持,②適切な涙液中の分泌型ムチン濃度,③上皮細胞に発現する膜型ムチンの回復,の3点と考えられている。
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