9-cis-β-carotene を摂取し視野が改善した網膜色素変性症の1 例

網膜色素変性は，夜盲や羞明，周辺視野の狭窄をきたし，最終的には失明に至る遺伝性進行性疾患である。本邦における失明原因の上位を占めるが，有効な治療法は確立されていない。この網膜色素変性の原因のひとつとして，視細胞外節と網膜色素上皮（以下RPE）細胞間に存在するビタミンA 代謝回路であるレチノイドサイクルの異常によって11-cis-retinal をRPE 内に誘導できないことが挙げられる1）2）。この11-cis-retinal の働きを代替する物質として9-cis-retinal が注目されているが，9-cis-β-carotene を摂取することにより9-cis-retinal が網膜内で作られる。近年，9-cis-β-carotene を高濃度に含有する食品の摂取による網膜色素変性患者の視機能の改善が報告されている3）。今回我々は，網膜色素変性のため徐々に視野が悪化していたが，9-cis-β-carotene含有食品の摂取により一時的に明らかな視野の悪化が認められなくなり，その中止により視野の悪化傾向が再開した網膜色素変性の1 症例を経験したので報告する。