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はじめに
膝前十字靱帯(anterior cruciate ligament; ACL)損傷は,膝のスポーツ傷害のなかで最も高 頻度に生じるものの1つであり,自然治癒能に乏 しいために,損傷前安定膝の再獲得,後発する半 月損傷・変形性関節症防止のために自家腱移植に よるACL再建術を行うのが通常とされ,とりわけ スポーツ復帰を切望する症例では必須とされてい る。近年の手術技術の著しい発展により,骨付き 膝蓋腱,ハムストリング腱を用いた解剖学的再建 術を行うことで損傷前の生理的・運動学的安定膝 を獲得することが可能になっている1)〜3)。しかし 一方で,力学的ストレスに耐えうる移植腱(特に 骨-腱間結合)に成熟するまでに6 〜12カ月を要 し,スポーツ復帰を妨げる主要因になっている。 これらの背景により,早期復帰を目的に,早期に 強度な骨-腱間結合治癒を獲得するための新たな 手法の確立が待たれている。 近年,腱・靱帯の再生・修復の分野においても, ①細胞,②成長因子,③担体を3本柱とする組織 工学的手法を用いた治療応用への期待が高まって いる。血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF), 骨形成因子(bone morphogenic protein 2;BMP2)などの成長因子 を用いた動物実験が行われ,その有用性が報告さ れているが,①血腫形成による靱帯脆弱性の問題, ②成長因子の至適濃度調整の問題,③コストパ フォーマンスの問題などにより実用化されていな い。また,骨髄間葉系幹細胞は成人幹細胞のなか で最も研究の進んだ,臨床実現性の最も高い細胞 群であり,骨-腱間結合治癒に対する研究の報告 も散見される4)。しかし,①腱・靱帯の骨化,腫瘍化, 周囲組織との癒着,②骨髄採取時の侵襲,③費用, など解決すべき問題も多いのが現状である。 本稿では,筆者らがこれまで取り組んできた靱 帯損傷に対する血管由来幹細胞を用いた再生医療 を紹介し,その臨床応用の可能性を考察する。
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