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は じ め に
発育性股関節形成不全(DDH)は近年発症頻度が低下しており,そのため乳児健康診断(健診)時の「すり抜け」による診断遅延例が問題となっている.日本小児整形外科学会(JPOA)による全国多施設調査により,わが国では年間およそ100例のDDH診断遅延例が存在することが判明している1).愛媛県内でも診断遅延例は増加傾向にある2).このため,当科では2014年以降愛媛県内において,県内の小児科医および一般整形外科医に対し,講演を通じて乳児股関節健診・検診(以下,健診・検診)についての啓発活動を行ってきた.啓発活動開始後,当科へのDDH疑い症例の紹介数は増加しているが,問題点が多く存在する状態であった.このため,愛媛県では2023年9月よりチェックシートを用いた新しい健診・検診システム(以下,新システム)を導入することとなった3).本稿では,新システム導入後の効果について報告する.
新システム導入までの経緯:啓発活動開始前,愛媛県では3ヵ月健診時に小児科医が乳児股関節健診を行っていたが,平均して1年に1例のペースでDDH歩行開始後診断例が発生していた.このため,当科では県内のDDH健診・検診を見直す必要性を感じていた.DDH健診・検診の方法としてはオーストリアなどで実施されている全例超音波健診[universal ultrasound scan(USS)screening]4)があり,わが国でも新潟市など一部の自治体で実施されて良好な成績が報告されている5).ただし愛媛県の現在の医療資源でいきなり全例超音波健診をめざすのは非現実的であるため,まずは英国などで実施されている身体所見と危険因子を活用した選択的超音波健診(selective USS screening)6)の確立をめざすこととした.ただし県内では乳児股関節に対しエコー検査を施行している医療機関はごく少数であるため,まずは「一次健診として小児科医により身体所見および危険因子を用いた健診を施行」,「二次検診として整形外科医がX線(レントゲン)検査およびエコーを用いて画像検査を施行」,「三次施設として小児整形外科医が最終診断および治療を施行」という体制の構築をめざすこととした(図1).そこでまずは県内の健診・検診の実態や,JPOAが推奨している開排制限以外のDDH危険因子(鼡径・大腿皮膚溝非対称,股関節疾患家族歴,女児,骨盤位分娩;以下,これらはDDH危険因子をさす)7)が用いられているか否か不明であったため,県内小児科医に対してアンケート調査を行った8).その結果,小児科医からのDDH健診要精査紹介率は2.2%であった.以前からこれらの危険因子を用いた健診が施行されてきた松戸市の紹介率はおよそ15%であり9),これと比較すると紹介率は非常に低い結果であった.県内での危険因子活用率は13.2%とこちらも非常に低かった.また,さまざまな理由により「DDHが疑わしくても整形外科への紹介がためらわれる」,という意見も多数あった.本アンケート結果をふまえて,当科では2014年以降県内の小児科医に対し複数回の講演を通じて健診啓発活動を行ってきた.啓発内容は,① コアラ抱っこなど育児指導の重要性,② 健診時危険因子活用の徹底,③ 「疑わしい症例」を躊躇うことなく整形外科に紹介する,という3点を強調して説明することである.また,県内の一般整形外科医に対しても,DDH健診・検診の実情および診断のポイントについて,講演を通じて説明してきた.啓発活動開始後,当科へのDDH疑い症例の紹介数は増加しているが,歩行開始後診断例は依然存在していた.そこで健診・検診の問題点を検証したところ,まず一次健診では女児(+)+家族歴(+)の乳児に二次検診をすすめないなど,危険因子を活用していない医師が依然多く存在していた.また開排制限を認めているのに確実に二次検診先へ紹介しなかったため歩行開始後に診断された症例や,漫然と小児科で経過観察を行った結果,診断遅延となった症例や,二次検診では不確実な画像診断による不適切な経過観察例や三次施設への紹介遅延例を認めた.啓発活動開始後の歩行開始後診断例の中には「女児(+)+股関節疾患家族歴(+)」に該当する症例も認めた.これらの症例は危険因子が活用されていたら,早期に診断がついていた可能性が非常に高い.以上より,現時点での健診・検診の問題点は「一次:危険因子の活用がまだ不十分」,「二次:乳児股関節画像診断が不確実」,「一および二次:次段階への紹介が遅い」という3点があげられる.上記3点に対応してより確実な健診・検診を実施するために,新システムを導入することとした.

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