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は じ め に
股関節後方脱臼骨折(大腿骨頭骨折)は比較的まれではあるが治療に難渋することがあり,長期的に患者の機能予後に重大な影響を及ぼす可能性がある.主な受傷機転は高エネルギー外傷であり,特に交通事故によるダッシュボード損傷が代表的である.寛骨臼骨折の分類にはJudet-Letournel分類が,大腿骨頭骨折の分類にはPipkin分類(type Ⅰ:非荷重部の骨折,type Ⅱ:荷重部の骨折,type Ⅲ:Ⅰ, Ⅱに大腿骨頚部骨折を伴う,type Ⅳ:Ⅰ, Ⅱに寛骨臼骨折を伴う)が広く用いられている.Pipkin分類は大腿骨頭骨折の大腿骨頭窩(円靱帯付着部)に対する位置関係と大腿骨頚部骨折または寛骨臼骨折の合併の有無に基づいている.緊急処置としてはできる限り迅速な脱臼の整復が重要で,整復ができればCTで損傷の詳細を確認する.
治療方針として,転位のある後壁骨折に対しては観血的整復内固定術(open reduction internal fixation:ORIF)が基本となりバットレスプレートが用いられる.一方で,骨頭骨折を伴う場合の治療方針は保存療法から骨頭骨片除去,ORIF,人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)まで多岐にわたる.
ORIFのアプローチとしてはKocher-Langenbeck(KL),Gibson,Smith-Petersenアプローチなどが用いられる.ただし,治療戦略については明確なコンセンサスが得られておらず,Pipkin分類type ⅠおよびⅡにおけるORIFの適応に関しては議論の余地がある.最近のレビュー1)では,脱臼整復後の骨頭骨折転位が1mm以下で,関節の適合性が良好かつ遊離骨片が関節内にない場合は保存療法でもよいとされている.後療法は,床上安静と牽引治療ではなく早期可動域訓練が推奨され,6週間の20kg部分荷重歩行と股関節70°までの屈曲制限が紹介されている1).合併症としては大腿骨頭壊死(osteonecrosis of the femoral head:ONFH),外傷後変形性股関節症(post-traumatic hip osteoarthritis:PTOA),坐骨神経麻痺,異所性骨化(HO)などがあり,これらは患者の機能予後を不良にする主な要因となる.そのため高齢者や骨頭損傷が高度な症例(広範囲の軟骨損傷を有する症例)では,THA(症例によってはORIFを併用する)が選択肢となる.
筆者が自治医科大学で経験した16歳以上の高エネルギー損傷による股関節後方脱臼は53例55股(平均年齢42歳,男性44例,女性9例)あり,うち9股(7股は後壁骨折合併)は徒手整復後に保存療法を,2股(2股ともに後壁骨折合併)は観血的整復後に保存療法を行った.受傷14時間後と36時間後に脱臼が整復された症例がそれぞれ1股あったが(OFNHは呈していない),ほかの53股は8時間以内に整復されていた.手術療法は43例44股に行ったが,41股は寛骨臼骨折を,16股は骨頭骨折を合併していた.44股のうち初期治療にTHAを行った症例が2例3股(高齢者と両側Pipkin分類type Ⅲの症例)あった.ORIF後にPTOAのためTHAにコンバートされた症例が2例あったが,うち1例は既報のとおりであり2),もう1例は症例4として本稿で紹介する.把握できている明らかなONFHは1例であった2).
本稿では,長期にわたって追跡調査できた股関節後方脱臼骨折(大腿骨頭骨折)の自験例を呈示し,長期成績に関する報告をまとめて考察した.

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