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は じ め に
診断エラー(diagnostic error)は医療現場において予防可能な死亡の原因の一つとして重要とされている.そこで本稿では,救急における整形外科の診断エラーについて考察した.2015年米国医学研究所(現:全米医学アカデミーズ)により,診断エラーは「患者の健康問題について正確で適時な解釈がなされないこと,もしくはその説明が患者になされないこと」と定義されている1,2).「正確で適時な解釈」については後方視的に評価がなされるが,はたして判断した時点において正確であったかの事後評価はむずかしく,いかに検証するべきかの議論がなされている.「患者への説明」が定義に含まれる点については,診断エラーが影響を与える対象が誰であるかという視点に則ったものといえる.いくら診断が正確で適時であっても,患者と医師の説明と合意からその後の治療判断がなされなければ意味がない.患者と医師の間のコミュニケーションエラーも診断エラーに含有されていることは知っておくべきである.
診断エラーの頻度に目を向けると,救急外来受診患者において一つ以上の診断エラーが生じるのは5.7%,有害事象が生じるのは2.0%,重度の有害事象が生じるのは0.3%,死亡を生じるのは0.2%という報告がある3).同報告において,診断エラーをきたした最多の疾患は骨折であるとされている.その他,整形外科関連疾患では脊髄損傷が6位に入っている.
診断エラーは複合因子が原因で生じるとされている4).日本の臨床医を対象にしたアンケートでは診断エラーの原因を医師個人の知識・経験不足に言及する傾向が明らかになった5).しかし,実際には認知バイアスの影響が大きいとされており4),知識や経験があったとしても認知バイアスにより診断エラーが起こりうることは知っておくべきである.
われわれは日常を直観的判断に支えられて過ごしている.直観的判断は有用ではあるが必ずしも正しいとは限らず,過ちを起こしうるものである.過ちを起こす原因が認知の歪み,すなわち認知バイアスである.認知バイアスは複数種あることが知られている.具体的な認知バイアスについては表1を参照されたい6,7).
ここからは,認知バイアスに関連した具体的な症例とその経過をいくつか紹介する.なお,症例3は救急とは診療セッティングが異なることをあらかじめお断りしておく.
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