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炎症性腸疾患の今昔
炎症性腸疾患(IBD)には,主として潰瘍性大腸炎(UC)とCrohn病(CD)が含まれます.本邦における患者数はこの20年間で飛躍的に増加し,全国の病院を対象とした調査により,2023年時点の有病者数はUCで約31.7万人,CDで約9.6万人と推計され1),2015年の調査時に対して,両疾患がともに約1.4倍に増加したことが示されました.
筆者が消化器内科専修医として勤務していた2008年前後,IBD診療の主軸は「ステロイドによる寛解導入」と「5-アミノサリチル酸(5-ASA)による維持療法」,CDでは加えて栄養療法であした.生物学的製剤は一部の重症CDで導入され始めたばかりのインフリキシマブ(抗TNF抗体)が「劇的に効く」ことが衝撃をもって語られていた時代です.
一方,現在のIBD診療は,免疫学・分子生物学,そして治療薬の急速な進歩により大きく変貌しました.治療のパラダイムは「炎症を抑え,症状を改善させる」から「内視鏡的寛解や深い寛解を達成し,長期的な臓器障害や手術を防ぐ」へと進化し,さらには「treat-to-target(T2T)」という概念が広く普及し,短期的・中期的・長期的な治療目標を定め,目標達成の評価と,必要に応じた治療の見直しをする,という治療戦略がとられるようになりました2).TNF阻害薬,IL-12/23阻害薬,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬,インテグリン阻害薬,S1P受容体調節薬,カルシニューリン阻害薬といった多彩な薬剤が選択でき,治療の幅と組み合わせは飛躍的に拡大しています3).
今振り返ると,20年前のIBD診療は “炎症の消火活動” が中心でしたが,現在は “再燃を防ぎ,臓器障害を予防する慢性疾患マネジメント” へと姿を大きく変えています.これは科学の進歩と治療戦略の改善により,IBDが難治性疾患から,「適切な管理で長期予後を改善しうる疾患」へと近づいたことを意味します4).

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