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平成27年9月,厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」は,50歳以上を対象とした胃内視鏡検査を用いた胃がん検診を対策型検診として推奨した.すでに医療現場で広く普及した胃内視鏡検査を,検診として実施するにあたっては,さまざまな配慮が必要である.というのは医療では,症状のある患者と医師との間で検査を行うにあたって,説明や同意が行われ診療録に記載される.また,それが適切であったかは医療保険の指導・監査などによるチェック機能が働く.一方,自治体が行うがん検診は,無症状の住民に税金を使って検診を提供するものであり,医療と同様の説明と同意を行う時間的余裕や診療録がない.よって同じ検査であっても診療と検診では,運用方法を分けて対応しなければならない.医療機関ごとに前処置や撮影・読影などがバラバラではいけないということである.この『対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル』は,国が推奨するにあたって,日本消化器がん検診学会に委託した運用手順書である.国の推奨にいたる有効性を示すエビデンスのほか,内視鏡検診を実施するにあたっての組織づくり,読影体制,前処置や検査手順,感染症対策などがまとめられている.現在,比較的大規模な病院では感染症対策としてstandard precautionsの概念に基づき事前の感染症検査を行わず,全例を自動洗浄機で洗浄しているところであるが,診療所の多くはいまだ手洗いであったり,感染症検査陽性者のみ消毒している施設がある.しかし,自治体が行うがん検診では,健常者に “税金を投じて” 感染症を広めることは決してあってはならないのである.よりいっそうの安全対策が必要であることから,病院と同レベルの配慮を要求している.
内視鏡医の多くが二重読影という条件に不満を感じていると聞く.二重読影は肺・乳房など画像を用いた検診では必須条件になっている.診療での内視鏡検査でわざわざ2名で読影することは行われていないだろう.しかし,肺や乳房の検診では権威とされる放射線科医であっても二重読影の一翼を担っている.胃内視鏡だけ別という論理は成り立たないだろう.
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