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皮膚病理学には皮膚科専門医なら皆精通していなければならない,というのは大学で教育的立場にある者にとっては建て前のところもあるが,そう言わざるをえない.しかし現実には,皮膚病理学が得意な皮膚科医の一群とそうでない者に分かれる.私も後者であるが,この『皮膚病理組織診断学入門』の著者,斎田俊明信州大学名誉教授もその一人と謙遜されていた.「川島君ね,Mihm先生(ハーバード大学皮膚病理教授)とか熊切正信先生(福井大学名誉教授)とかはね,顕微鏡を覗いた瞬間にその病理像が何を表現しているかがわかってしまうのですよ.感性で診断できてしまうのです.でもね,形態学に弱い僕にはそれができない.皮膚病理医としての優れた感性に欠けるのですよ.だから,皮膚病理を理詰めで観察しなければならない.logicを重ねて自分で納得しながら診断に至るしかない.その最低限の過程をまとめたのが2000年の初版なのです」と言われた.
皮膚科医の駆け出しの頃,組織カンファレンスでプレゼンテーションを行っていると,先輩から「見えても見えぬか」と言われたものである.その病理像が意味するところは,網膜に投影された像を表現するにとどまっていては,診断には至れない.それを特殊な感性でショートカットして理解するか,あるいは地道に理詰めの思考を巡らせて正しい診断に至るか,しかない.多くの皮膚科医は失礼ながら後者であろう.その多くの皮膚科医にとって,これまでの皮膚病理の教科書はとっつきにくいものでなかったであろうか.それは高い感性の持ち主たちが書かれたものがほとんどを占めていたからである.その著者にとっては当たり前のところがスキップされてしまっているがために,手がかりを見つけることができず,難解な教科書という印象を抱いてしまい,「愛読書」にはなりえずにおしまい,となっていたのではなかろうか.
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