- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
急性期がん医療の現場では,最先端の知見に基づき積極的治療に全力を注ぐ一方で,病状の改善を信じ,明日への意欲を言葉にしていた患者の急変や,緩和ケアへの移行を図る間もない看取りが日常的に起こりうる1).患者の生を支えようと尽力した医療者は,提供したケアへの自責や,何もできなかったという無力感に起因する「道徳的苦悩(moral distress)」に直面することが多い.Jameton(1984)が提唱したこの概念は,現在のがん医療においても,提供したいケアと現実の制約との乖離から生じる心理的苦痛として定義されている.急性期の慌ただしい業務のなかでは,医療者自身のグリーフは後回しにされがちであるが,この未解消の感情はバーンアウトの要因や次なる患者・家族への消極的なかかわりを招くリスクとなる2).
こうした課題に対し,亡くなった患者へのケアを振り返り,今後のケアの質を高める場がデスケースカンファレンスである.デスケースカンファレンスにおいて,医療者が自らの思いや葛藤を率直に語り合う対話のプロセスは,医療者自身のケアとなるだけでなく,患者・家族をより深く理解し尊重するケアの基盤となる.急性期病院である当院においても,よりよい患者・家族ケアを実現したいという思いから,デスケースカンファレンスを実施している.広瀬は「ケアを提供する人間は,同時にケアを受ける必要がある」3)と述べており,筆者は緩和ケアチーム看護師として,積極的治療と看取りのはざまで揺れ動く医療者のグリーフケアを目的に,多くのデスケースカンファレンスに参加している.本稿では,複雑な家族背景や精神疾患を抱えた患者の事例を通して,医療者が直面した道徳的苦悩と,デスケースカンファレンスがもたらす効果について考えていく.

© Nankodo Co., Ltd., 2026

