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事例
島さん(仮名).80歳代後半,男性.膀胱がん(尿路上皮がん,粘膜下層まで浸潤T2).
既往歴:高血圧,アルツハイマー型認知症
重症度分類FAST (Functional Assessment Staging of Alzheimer’s Disease)5の中等度である.下肢筋力は維持され歩行可能だが,記憶障害,見当識障害,実行機能障害のため,更衣や入浴など日常生活全般に介助や見守りが必要な状態である.週4回デイサービスを利用している.
80歳代前半の妻と二人暮らし.近所に住む長女が,家事の手伝いや受診の付き添いを担っている.長男や長女家族との食事会を毎月行い,孫やひ孫と過ごす時間を楽しんでいる.
経過・状況
デイサービス中,介護福祉士が島さんの尿に血液が混じっていることに気づき,妻に受診を勧めた.かかりつけのクリニックで行った尿検査と腫瘍マーカー値に異常を認め,精密検査目的でY病院を紹介された.Y病院ではCTやMRIなどの検査を行ったが,MRI時には静止困難のため鎮静薬が使用された.島さんは氏名や痛みの有無など簡単な質問には返答できた.採血や静脈留置針の挿入時に嫌がるため,妻が優しく声をかけ,背中をさすることでどうにか実施していた.
検査の結果について,医師から本人と妻,長女に対し膀胱がんと告知されると,島さんは「がん? 歳だからしかたない」と言った.さらに治療方針について,遠隔転移はなく,下肢筋力が維持されていることから,根治を目的とした経尿道的膀胱腫瘍切除術(Transurethral Resection of Bladder Tumor:TURBT)が提示されると,島さんは「わからない.お任せします」と返答した.妻や長女は手術を受けて治ってほしいと考えたが,一方で本人が入院生活や手術に耐え得るか不安を感じていた.
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