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はじめに
2021年10月,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)研究をリードしてきたSean Morrisonが,著名な米国医師会雑誌(JAMA)に「What’s Wrong With Advance Care Planning?(アドバンス・ケア・プランニングの何が間違っていたのか?)」と題した論考を出した1).20年間にわたって莫大な労力がACPに費やされてきたが,実社会での患者アウトカム(臨床上の成果)は変わっていないというものだ.
ACPの定義が総論的な内容で(漠然とした内容で),さまざまな状況に適応可能である反面,各現場で何をすればよいかイメージが湧きづらいという声をよく聞く.各現場でACP支援を始める上で忘れてはいけないのは,ACPは「目の前の患者の課題」に対するコミュニケーション手段の一つであって,目的であってはいけないということである.すなわち,ACP支援を暗中模索の中で漠然と進めるのではなく,まずは「各現場において組織的な課題は何であるのか」を明確にすることから始め,そして,その課題に対する方策の一つがACP支援と考えるのであるなら,その課題の解決に向けてACP支援をコミュニケーション手段として模索していくことが大切である.また,ここで留意すべきことは,誰の課題なのかを絶えず念頭に置いておくことである.なぜなら,医療者が患者のために良かれと思ってACPをすすめても,実は「患者が望んでいる」ことではなく,医療者自身の課題(「早く前もって何とかしなくては」という焦りなど)が影響していたということもよくあるからだ.
九州がんセンターでは,2012年の秋に,相談支援センターの方からの一言である「多くの患者は,最期を過ごしたい場所で過ごしておらず,もしかすると望まない医療がなされいているかもしれないと思うんです.何とかならないですかね~」という組織的な課題から始まった.
本稿では,九州がんセンターにおける組織的な課題に対する長い苦難の道のりで培った成果物(道のりが大切であるが)の話題を中心に2,3),「話し合いを始める対象となる患者を同定し,早期からACP支援を始めるための組織的なスクリーニング」について論述する.なお,九州がんセンターの成果物がすべてではなく,各現場で,「何か物事を行うためには,誰のために,どんな環境で,どのように継続し,一貫性をもたせるか」を考慮しながら工夫いただけることを願っている.
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