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わが国では1年間に40万人以上の女性ががんを罹患している現状がある(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」2018年).特に,30代,40代では,女性のがん患者は男性の約3倍を占めている.この年代の女性は社会的にも家族内でも大きな役割を担っている.さらに,治療によっては生殖機能への影響が避けられない場合もあり,妊娠・出産といった女性性の喪失の危機は当事者にとって大きな課題である.
「女性のがん」の治療環境は今,大きく変化している.例えば,乳がんにおいて,PARP阻害薬のコンパニオン診断としてのみでなく,遺伝性乳がん卵巣がん症候群の可能性がある既発症者に対するBRCA1/2遺伝子検査,リスク低減予防切除術が保険収載され,初期治療選択において遺伝性腫瘍について検討することが増加した.また,子宮頸がんにおいては,予防のためのHPVワクチンの接種勧奨が再開されることとなった.これらの動向から看護師には,女性のがん予防啓発や未発症者へのスクリーニングの推奨,がんと治療や長期的サバイバーシップ支援といった,治療期のみではなく,女性のヘルスケアを長期的に見据えて支える視点が求められている.
そこで,今回の特集ではまず,「女性のがん」のなかでも乳がんと卵巣がんの治療の最前線について第一線の医師から看護師が知っておくべき知識を解説いただき,さらに,これらの治療による長期的影響に対する女性のヘルスケアについて婦人科医の視点からもご解説いただいた.HPVワクチンの項目ではその効果と適応について概説いただいたうえで,誰に何を伝えなければならないのか,看護師に求められる役割も検討した.遺伝性乳がん卵巣がん症候群については,医師・遺伝カウンセラー,そして当事者の立場から,情報提供のあり方,未発症者や血縁者のスクリーニング,リスク低減予防切除術の選択などのマネジメントの実際をご解説いただき,看護師の責任ある支援について吟味する内容となっている.
さらに,「女性のがん」特有のケアの最新のトピックについて,①セルフケア支援が重要となる婦人科がん放射線治療後の合併症の看護,②国からの助成制度が開始された妊孕性支援,③若年女性がん患者の家族支援のあり方の3つを取り上げた.最後に,女性がん患者の包括的な支援としてがん専門病院における外来での先駆的な取り組みをご紹介いただいた.
一人の女性ががんと共に生きる.その体験のすべてに影響を受ける人々が安心して暮らすことができるために看護は何ができるのか,いま一度問い直したい.
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