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HPVワクチン開発の経緯
1980年代にHuman papillomavirus:ヒトパピローマウイルス(HPV)16型が初めて子宮頸がんより分離されて40年近くが経過した1).子宮頸がん患者は,世界で毎年50万人発生し,27万人が死亡している.さらに1,000万人の子宮頸部高度異形成患者,3,000万人の子宮頸部軽度異形成患者,3億人のHPV不顕性感染者が推測されている.日本では毎年,約1万人の子宮頸がん患者が発生し,約2,800人が死亡している.
分子生物学的な技術の進歩により,子宮頸がんのほぼ100%にHPV感染が関与していることが明らかになっている.HPVは,今までに200種類以上が分離されていて,遺伝子型によって番号がつけられている.子宮頸がんに関係するのは約15種類(HPV16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68,73,82型)と報告されている.そのうち,約70%はHPV16型とHPV18型である(図1)2).子宮頸がん発症に,HPV感染が必要条件であることが判明して以来,ワクチンによって感染を予防できれば,子宮頸がん罹患率を大幅に減らすことができると考えられるようになった.HPV感染予防ワクチンの開発の試みは,1990年代にさかのぼる.HPVは,人工的に培養することができないために,生ウイルスの調製やワクチン抗原の作製が非常にむずかしかった.そのため,血清疫学や中和抗体の研究が遅れ,ワクチン開発をむずかしいものにしていた.しかし,その後の精力的な研究によって,遺伝子組み換え技術を使用することにより,ほぼ生ウイルスと構造上の見分けのつかないウイルス粒子の殻であるVLP(virus-like particle)を作製することに成功した(図2)3).このVLPは,タンパク質のみからできているものであり感染性はない.動物実験において,このVLPをあらかじめ投与しておくと,その後の動物のパピローマウイルス感染を防ぐことが判明した.それ以来,ヒトへの投与でもHPV感染を防ぐのではないかと考えられ,大規模な臨床試験が始まった.2002年にHPV16型のVLPを抗原とした初の臨床試験の結果が報告され,前がん病変である子宮頸部上皮内病変(CIN:Cervical Intraepitherial Neoplasia)2以上の発症を大幅に予防できることがわかった4).CINの発生が予防できれば,子宮頸がん発生を予防できるのは自明であり,HPVワクチンは子宮頸がん予防ワクチンとしての効果を実証すべく,海外でさらに大規模な臨床試験が予定されることとなった.
VLPを使用したワクチン抗原は,型特異性が高いという性質をもつ.すなわち,HPV16型のVLPを投与した場合,HPV16型の感染を予防するがほかの型のHPV感染は基本的には予防できない.よって,子宮頸がんの70%の頻度を占めるHPV16型とHPV18型を抗原にした大規模臨床試験が行われた.この臨床試験は,GSK社によるPATRICIA試験とMSD社によるFUTURE試験であり,7万人を超える規模で行われた.結果は,HPV16型とHPV18型に起因するCIN2以上の病変を98%減少させるとの効果が認められた5,6).これら大規模臨床試験の結果をうけて,2006年ごろから海外において接種が一般に開始された.日本においては,2009年に2価ワクチン(HPV16, 18型)が,2011年に4価ワクチン(HPV6, 11, 16, 18型:HPV6, 11型は良性の“いぼ”であるコンジローマの原因となる)が認可され,接種できるようになった.2020年5月現在,海外においては,HPVの型をさらに増やした9価ワクチン(4価ワクチンにHPV31, 33, 45, 52, 58型の抗原を追加したもの)が認可されているが,日本では申請審査中である.
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