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連載にあたって
はじめまして.
わたしは7月生まれのかに座です.かに座はCancer.Cancerはがん.がんは見た目がかにの甲羅のようにごつごつとしているからとは皆さまご存じのことでしょう.さて,そんな私の人生がとことんCancer;がんに縁(えにし)があるとはよもや夢にも思いませんでした.
がんとの最初の出合いは看護学生のとき.身寄りのない末期がんの患者さまを看取らせていただきました.そのときの思いが心に大きく残り,卒後は小児がんの専門の道に進みました.そして現場で生まれた疑問から米国でがん看護を学びたいと臨床留学し,帰国後は患者と家族をテーマに研究に携わりました.そして28年間看護教育にかかわり,自らの経験を学生に伝えてきました.これまで本当に得がたい経験をたくさんさせていただいたと,出会った患者さまをはじめ多くの方々に心から感謝しています.
そんな中,11年前に自分自身が初めてがん患者になりました.まさに青天の霹靂,これまでとは真逆の立場になったのです.その1年半ののちには2度目のがん,そして今から3年前,がんは再発しました.気が付けばがん歴12年のベテラン患者です.がんも身のうち,すでにがんは闘う相手ではなく私の一部になっています.そして今は完治ではなく延命目的の「エンドレスケモ」の状態にあります.
3度目のがんで私はようやく「一人称のがん」を感じるようになりました.そしてがんとともに生きていくうちに,それまで自分が看護者として見ていたもの,伝えていたものとはまた違うこともわかってきました.そしてそれはテキストや専門書にある「活字」では伝わりきらない,がんと折り合いをつけながら生きていく上での「知恵」であり「覚悟」です.そして看護者だからこそ,患者として医療に望むこともいろいろ見えてきました.
主治医にくぎを刺されるほどポジティブシンキングな私はブリンカーを付けた馬のごとく,前だけを向くようにしています.けれどふとしたときに心はしょっちゅう揺らぎます.そんな日々の中で患者であり看護者としての私自身が思ったこと,救われた経験,細かな生活の工夫など,今生きているがん患者のリアルをお伝えしていければと思っております.いただいたこの機会が,今がんとともにある患者さま,そして同じ看護職にある同志の方々双方のお力に,少しでもなれば……と祈りつつ.
© Nankodo Co., Ltd., 2020