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漢字としての顎関節脱臼の概念は,中国の湖北省江陵県張家山の出土品で張家山漢墓竹簡である1,2)と考えられている.ここでは「失欱口不合:飲み込めず口が合わない」と記載され,症状であって病名ではなさそうである.『千金翼方』(659年)では「頰車脱臼」と「脱臼」の文字がみられる.その後『世毉得効方』(1137年)では「頰車蹉」が用いられ,『醫林類證集要』(1482年)では「下頷不咬者骨脱令」,『跌損妙方』(1523年)では「牙關骨打落」と変化したが,『醫統大全』(1556年)や『証治準縄』(1602~1608年)ではそれぞれ「頷車蹉」と「頰車蹉」が復活した.その後,本邦でも用いられる「落下頦」や「落架風」が『外科正宗』(1617年)で使われた.本邦ではわが国最古の医学書とされる『醫心方』(丹波康頼)の中では「治張口不合方」が用いられている.『蘭方枢機』(1815年)では「顎骨脱臼」が,『外科必読』(1833年)では「下顎脱臼」が用いられ,江戸後期や明治になると「下顎脱臼」は「落架風」よりも多用されていた.また江戸期・明治初期の和漢洋の病名をまとめた落合泰藏編著『漢洋病名対照録』では「下顎脱臼」は「此脱臼両側ニアルトキハ口ヲ放開シ涎ヲ流シ下顎懸垂ス言語闔口(口を閉じるの意)スルコト能ワス聴道ノ前下ニ於テ凹溝ヲナシ偏側脱スルトキハ以上ノ証徴偏側ニ呈スルモノナリ」としている.明治以降~第二次世界大戦前までの歯科医学教育用の中で入手できた58冊に用いられていた用語をみると,顎関節脱臼は下顎脱臼が最多で16冊,次いで下顎關節脱臼が7冊で,本邦で顎関節脱臼あるいは顎関節という用語を用いたのは入戸野賢二,佐藤運雄の『口腔外科學』(1920年)であった.
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