特集 心臓造形生物学:Heartができるメカニズム
せるてく・あらかると
細胞シート工学とiPS細胞大量培養技術でヒト心筋組織を創る
松浦 勝久
1
1東京女子医科大学先端生命医科学研究所
キーワード:
細胞外基質
,
心筋
,
細胞培養技術
,
再生医学
,
細胞増殖
,
組織工学
,
心筋芽細胞
,
iPS細胞
,
多分化能
Keyword:
Extracellular Matrix
,
Myocardium
,
Cell Culture Techniques
,
Myoblasts, Cardiac
,
Tissue Engineering
,
Regenerative Medicine
,
Cell Proliferation
,
Induced Pluripotent Stem Cells
pp.1176-1178
発行日 2014年10月22日
Published Date 2014/10/22
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筆者らは,日本発世界初の技術である“細胞シート工学”と“iPS細胞技術”を融合することによりヒト心筋組織の構築を目指した研究開発を行っている.その主たる目的は再生医療とヒト組織モデルへの応用にある.図1に示すように,細胞シート工学は,温度応答性ポリマーであるpoly(N-isopropyrlacrylamide) を培養基材表面へ電子線重合することにより,37℃では疎水性表面として通常どおり細胞を培養できる一方,32℃以下では親水性表面へ可逆的に変化するため,細胞外マトリックス,基底膜タンパク質および細胞間接着タンパク質を維持した状態で単層の細胞シートが回収できることを基盤技術としている.すでに角膜,食道,心臓,歯周組織,軟骨,中耳の領域においては,単層から数枚積層化した細胞シート移植が国内外で臨床応用されている.再生医療にどうして細胞シートなどの組織工学が有用なのか? それは,細胞もヒトと同様に,個では弱くとも,組織(周りに仲間がいる)になるとより力を発揮するからであろう.すなわち生体では血球系細胞を除いて細胞が単一で存在することは稀であり,多くの接着系細胞は単一浮遊で足場のない状況に曝されるとアノイキス(anoikis)となり,細胞死に至る一方,組織の中で周囲の細胞や,フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスに囲まれていると,インテグリンを介して細胞生存シグナルが活性化される.心筋細胞も同様であり,心筋梗塞を作製したラット心臓に単一細胞浮遊状態の心筋細胞を移植するよりも,同じ数の心筋細胞を細胞シートとして移植したほうが,移植細胞の生着が顕著であり,結果的に心機能の回復も大きいのである.
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