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私は以前,毛包の細胞成長因子などの研究に携わっていたが,最近は脱毛症治療やガイドラインの作成などの仕事に関わっている. 我が国の発毛産業は1千億円市場と言われているが,Cell,Nature 誌などで議論されている毛包幹細胞や毛髪再生の話と,テレビやネットで喧伝されている毛髪ケアや育毛に関する間違った情報の間には大きなギャップを感じている.例えば,毛孔に脂が詰まると脱毛するとか,EBM(evidence-based medicine)のない育毛剤や発毛作用のないシャンプーがよく売れるなどである.広告は巧妙に作られており,大手製薬企業もその一翼を担っているのが情けない.これには化粧品,医薬部外品,医薬品という我が国の育毛剤の分類も大きく影響している.化粧品では効果は主張できないが,広告は比較的自由であり,逆に医薬品では効果と安全性が厳しく問われ,広告も制限される.医薬部外品は中間的なポジショニングを強いられる.そして結果的に,EBMのない化粧品育毛剤のほうがよく売れるという現象が起きたりする.このような医療行政の仕組みが,研究室から臨床現場に新製品を届けようとする研究開発意欲を歪めたものにしているように思う.このような社会状況を少しでも改善しようと,3年前に日本皮膚科学会(毛髪科学研究会)の専門メンバーが中心となって診療ガイドライン1) を作成した.その目的は,①根拠のない情報を提供したうえで,治療に近いケアを実施するヘアサロンの存在,②科学的根拠に乏しい医薬部外品や化粧品が,宣伝効果により医薬品と同等に販売されている事実,③人工毛植毛術による副作用の問題,などを是正するためであった.ガイドラインを発表すると,報道ニュースで取り上げられるなどマスコミの反響はすさまじいものであった.ガイドラインの発表から3 年を経過した現在,発毛に関する正しい情報提供が少しはできたかなと思っている.
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