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はじめに
がんの診断技術と治療法の進歩により,がんの根治率が上昇し,完治が難しい症例であっても,免疫チェックポイント阻害薬や抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)製剤の登場により,生存率が大きく向上している今日,「がんサバイバー」という言葉が注目を集め始めている.国立がん研究センターからの報告では2010〜2012 年の全がん患者の5年相対生存率は68.9%となっている1).しかし,治療が終了したからといって,患者が「完全に元どおりの健康を取り戻せる」とは限らない.手術,化学療法,放射線治療,ホルモン療法といった治療法は,命を救う反面,時に長期的・不可逆的な影響を残す.
たとえば乳がん術後のリンパ浮腫は,日常動作を妨げるだけでなく,ボディイメージや社会的活動にも影響を及ぼす.また,ホルモン療法による更年期症状や,化学療法後にみられる「ケモブレイン(化学療法関連認知障害)」は,見た目にはわかりづらいものの,患者の生活の質(QOL)や職業復帰を阻害する要因となり得る.こうした症状は,がん治療終了後の「新たな慢性疾患」として捉えるべき時代に来ている.
本稿では,がん治療後に残る主要な後遺症や副作用について概説し,日常診療で対応可能な支援の実際や,専門医療機関との連携のポイントを整理する.がん治療の「その後」を診る医師として,患者に寄り添うための実践的な視点を提供したい.
がん治療後には患者にとってさまざまな影響が出てくる.そのなかでも治療後に出てくる手術後の疼痛やリンパ浮腫などは長期的な影響であり,晩期障害というのは放射線治療や抗がん薬治療により,数ヵ月〜数年後など時間をかけて出現してくる合併症のことである.これらは手術部位,放射線治療部位,放射線照射線量,抗がん薬の種類によりさまざまである.すべてではないが,手術・放射線・抗がん薬治療による長期的影響や晩期合併症でよくあげられるものを表1に示した.

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