連載
腫瘍薬学ハイライト ヒ素化合物による抗がん薬
川西 正祐
1
1鈴鹿医療科学大学
pp.1488-1489
発行日 2023年7月5日
Published Date 2023/7/5
DOI https://doi.org/10.15104/ph.2023080032
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ヒ素は毒性が強く,森永ヒ素ミルク中毒事件や和歌山毒物カレー事件など,ヒ素化合物による中毒事件が多数起きている.また,無機ヒ素化合物の長期摂取による皮膚障害,末梢神経障害および発がん性などの慢性毒性も知られている.
ヒ素による皮膚がんについてのParisらの報告は古く1822年のことである.銅精錬業者や農薬製造・使用者における職業性無機ヒ素曝露により,肺がんや皮膚がんのリスクが高くなる,ヒ素汚染地域での飲料水の摂取により 肺がん,肝臓がん,腎臓がん,膀胱がんのリスクが高くなるといった疫学研究に基づき国際がん研究機関(IARC)では,ヒ素および無機ヒ素化合物を「ヒトに対して発がん性がある(グループ 1)」と評価している1).
ヒ素による動物での発がん実験の成功がほとんどないこともあり,ヒ素の発がんメカニズムは十分には解明されていない.現在推定されている発がん機序として,酸化ストレスの誘発の作用を介したDNA損傷およびDNA損傷の修復酵素阻害などが考えられている.
一方,ヒ素化合物の生物に対する強い毒性は,農薬や木材防腐剤に利用されている.ペニシリンが発見される以前には,有機ヒ素化合物であるサルバルサンが梅毒の治療薬として用いられるなど,古くから医薬品としても用いられてきた.
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