研究・教育活動推進委員会:平成20年度活動報告 ワークショップ「的確な判断のための思考プロセスの明確化:高齢者のフィジカルアセスメント2」
─講演─フィジカルアセスメント─高齢者の身体構造と生理変化
高橋 龍太郎
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1東京都老人総合研究所
pp.105-107
発行日 2009年3月15日
Published Date 2009/3/15
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1.高齢者のフィジカルアセスメントの難しさ
遺伝子の配列によって決定される性質や特性を表現型(phenotype)と呼ぶ.AOやAAという遺伝子型がA型という血液型の表現型をとるなどはその一例である.これに倣って,フィジカルアセスメントの中でも特にバイタルサインは,身体構造の加齢変化の生理的な表現型ということができる.身体構造の病理的加齢変化それ自体は死後の剖検によって確かめるしかないけれども,表現型としての生理指標を測定することによってその特徴を把握することができる.
フィジカルアセスメントは,通常,疾患の診断や病勢の評価に用いられる.また,バイタルサインは基本的心身機能や生命徴候の状態を評価するために測定される.しかし,高齢者ではフィジカルアセスメントから疾患の診断や病勢の評価を行うことは容易でない.その理由の1つは,心雑音のように健常高齢者でも高頻度に聴取される所見があって病的な意義があるかどうかの判断が難しい点である.ただし,僧帽弁狭窄症のように特異的な雑音と意義をもつものもあることに注意が必要である.第2に,片麻痺のある場合にみられる麻痺側の浮腫のように,持続的でほとんど消えることもない“異常所見”であるが,その変化の度合いを評価することや変化の意義が不明確であるという理由をあげることができよう.第3に,従来記述されてきた“異常所見”が必ずしもそのとおりの意義をもっていないことが多いという点である.眼球結膜の色調やスプーン爪によって貧血があると判断すると間違うことが多い.一方,バチ状指を見たならば,慢性の心肺疾患によって低酸素状態が持続していることが示唆される.
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