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はじめに
「フィジカルアセスメント(PA)」という言葉はここ10年ぐらいの間に看護教育の中で知られるようになってきました.本来的には「ヘルスアセスメント」と呼ぶべきものですが,日本でPAという名が一般的なので,ここではPAと呼ぶことにします.私が初めてこの言葉を聞いたのは,20年以上前,まだ学生の頃で,米国の看護学教育を視察してこられた見藤隆子先生が,「これからはフィジカルアセスメントが大事です.どうぞ勉強してきてください」などと勧めてくださいました.その後留学したカリフォルニア大学サンフランシスコ校でPAの講義と演習の受講を希望したのですが,博士課程にいたために,教育に人手のかかるPAには参加できない,と言われてしまいました.その後,カリフォルニア大学のロサンゼルス校でナースプラクティショナー(NP)の養成プログラムに入り,晴れてPAを学ぶことができました.
私が学生の頃にはほとんど知られていなかったPAが,今の日本の看護では,特に教育の現場で重視され始めています.このことは,社会が看護に求めるものが時代とともに変化することを表わしているように思われます.看護の基本となる,人間の健康に対する考え方やスタンスのようなものは変わらないものの,具体的に求められる知識や技術は変化してくるように思われます.それには高齢化など社会の構成の変化,それに伴う介護保険の登場などの制度の変化,など,いくつかの要因があるでしょう.現代の高齢者看護では,看護師は介護職とは違う何をしてくれる存在なのかが,特に厳しく問われる時代となりました.このような変化と,PAが注目され始めてきたこととは,無縁ではないのではないかと思います.これからの高齢者看護においては,従来看護師がなじんできた医療機関の場での看護は,そのほんの一部にすぎなくなっていくのではないかと思います.在宅や福祉施設などの場で,1人または少数で,医師や各種の医療機器のない場で,看護師の的確な判断が求められていることを多くの看護師が認識し始めて,それでPAを重視し始めているのではないかと思います.
もう一つ指摘したいのは,看護が時代の流れとともに変化するのと同様に,看護が展開される社会によっても,看護師に求められるものは違う,ということです.現在紹介されているPAの教育枠組みは,米国の看護教育で用いられている枠組みが中心です.それは米国の社会が米国の看護師に求めているものであって,日本の社会が日本の看護に求めているものではない可能性があり,それをどのように組み替えていくことが必要か,皆さんと考えていきたいと思っています.そのたたき台として,ここではまず,米国で学んできたPAについて話していきたいと思います.
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