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I.緒言
医療の対象者に対し分かりやすく説明する方法は現在もなお探求されているテーマであり、医療/医学用語の提供のあり方を研究した国立国語研究所「病院の言葉委員会」による病院の言葉を分かりやすくする提案(2009)が代表的である。これによると患者に言葉が伝わらない原因に「①患者に言葉が知られていないこと、②患者の理解が不確かであること、③患者に理解を妨げる心理的負担」があることが挙げられている。このうち「①患者に言葉が知られていないこと」に対処するには、説明者側により専門用語を対象者が理解できるような日常語で言い換え、平易化する力が求められる。すなわち、医療専門用語を分かりやすく説明するためには先ず、医療専門用語を正確に認知し、理解することが求められ、その次に誤解や誤用なく対象者に伝えるという二つの課題がある。医療従事者の全てを対象として示された診療情報の提供等に関する指針(平成30年7月20日,医政医発0720第2号)においてもインフォームド・コンセントの内容には実に多岐に渡る内容を患者の理解が得られるように説明することが求められており、これを実行できる能力の育成は重要な課題である。更には、症状や治療の説明の際に、十分に理解できない医療専門用語を用いることで患者に不安やストレスを与える可能性があることが明らかにされており(末本ら,2012;栗原ら,2013)、患者への説明の場を担う看護師には高い説明能力が求められる現代にある。
一方、医学ならびに医療の専門知識を獲得する過程に在る医療系学生自身にとって、医療の対象者を意識しつつ分かりやすく説明する能力を獲得することは容易なことではない。診療場面におけるコミュニケーションの教育訓練のためのアプローチとしてKurtzとSilvermanが開発したCalgary-Cambridge guide─コミュニケーションプロセススキルがある。Calgary-Cambridge guide─コミュニケーションプロセススキルは9つの要素から構成されるスキルであり、そのうち『的確な想起と理解の補助』のプロセスには「分かりやすい言葉を使用する・専門用語は避ける」ことが挙げられている(Kurtz et al., 1996)。同様に、国内における看護教育においても看護基礎教育修了時の到達目標の一つに、実施する看護の根拠・目的・方法について、対象者の理解度を確認しながら説明する能力を備えることが期待されているものの(厚生労働省,2019)、説明能力を醸成するための医療系学生自身による医療専門用語の認知・理解の程度や現行のカリキュラムによる教授法は明らかでない。この文献調査では、医療専門用語に関する医療系学生の認知と理解を取り上げ、加えて、医療専門用語の教育で検討されている教授法について整理することを目的とした。
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