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Ⅰ.はじめに
がん患者は,がんを告知され死を迎えるまでに抗がん剤による治療,手術療法,放射線療法などの治療や,同じがん患者との出会い,休職による役割の喪失などを経験する.医者はこのような患者が「いい人生だった」,「生ききった」と最期を迎えられるようにと看護する.しかし患者は,身体的苦痛が増したり治療効果がなくなったと知ると,急に落ち着きをなくし苛立ちを見せたり,怒りや苦しみを言葉にだすようになる.
柏木1)は,死にゆく患者のケアの実際で①すわりこむこと,②患者の言葉に耳を傾けること,③感情に焦点をあてること,④理解的態度をとることを挙げている.しかし,黙って患者の訴えに耳を傾け,感情に焦点をあてて話を聴いても,共感しても患者の気持ちが和らぐとは限らなかった.患者は何か別なものを,求めているのではないかと考えた.
死の過程の研究では,キュブラー・ロス2)の死にゆく人の心理過程が,1969年に報告されて以来,“死の受容”という言葉が普及し,死の過程の心理に関して多くの報告がなされてきた3)〜14).
“死の過程”に関する研究は,①キュブラー・ロス15)やBuckman16)の死の段階理論と②段階理論でないもの(Weisman17),Charmaz18),Kastenbaum19),Corr20),Copp21))に大きく分類することができる.前者の研究は,キュブラー・ロス〔『Death and Dying』(1969)〕の死の受容過程(否認,怒り,取り引き,抑うつ,受容)の5段階とその5段階説を批判した,Buckman(1998)22)の脅威との直面,病気を抱えた状態,受容の3段階説がある.後者の研究は,必ずしも患者が対象ではなく患者や家族,医療専門職者も対象となっており,死の過程にある人の心理のみを分析しているものではない.
日本においては,柏木23)が,希望—疑念—不安—うつ状態—受容・あきらめの5段階を示している.また,前田ら24)は未告知のがん患者の入院から死までの心理過程を分析し,5つのステージ『不安と困惑(Anxiety andPuzzlement),疑念と否認(Suspicion and Denial),確実性(Certainty),覚悟(Preparation),死の受容(Accepting death)』を経験しそのステージをたどる人は,そのステージに移る前に,ゲート『怒り(Anger),否認(Refusa),死の受容の認識(Perceived approachingdeath),苦悩(Grief)』があることを報告している.
しかし,これらの研究は,死の過程でのある特定の時期やがん患者の体験を基に調査されたものである.死にゆく患者の心理的変化は常に変化しており,その要因も異なっていることが予測される.また,面接は体験を想起したものであり,患者は複雑な心理的変化を整理して話している可能性がある.この件では前田ら24)も指摘している.
そこで,がん患者の“死の過程”の心理的変化に再度注目し,3名のがん患者の告知から終焉までの面接内容と医師記録,看護記録,がん告知から終焉の数年間の観察記録を分析し,がん患者の病名告知から終焉までの心理的反応とその要因を明らかにした.
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