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Ⅰ.はじめに
前立腺がんは,日本をはじめとするアジア諸国では欧米と比較して明らかに少ないがんで,その要因として脂肪が少なく野菜や大豆食品が多い食事が考えられている.日本人が米国へ移住することで,その世代の母国人と比較して確実に前立腺がんの頻度が高くなることからも食事を含む環境因子が影響を及ぼしていることが明らかである1).しかし,わが国においても前立腺がんの罹患率・死亡率は急速に増加しており,その増加率は主要ながんの中では最も高い.その要因には,高齢化や食生活の欧米化,腫瘍マーカー(PSA)による発見率の上昇などがあるとされている2).がん死亡の35%は食事が原因ともされ3),個人の食行動と生活習慣病としてのがんの関連性は高いことが判明しており,一次予防としての食生活の教育は重要である.さらに現在のわが国には,一度がんを罹患して治癒したがんサバイバーが180万人存在するとされ,その再罹患率は高いといわれている4).しかし,がん患者の食生活行動の看護支援としては食欲不振や術後の食べ方に関する教育等がほとんどであり,予防的な,あるいはがんの進行を抑止する観点からの看護介入は実施されていないのが現状であろう.人々の健康志向が高まり,多くの健康食品や栄養補助食品が市販され情報過多による弊害も指摘されている.看護者は,食品機能に関する適切な知識を得て,今後がんをはじめとする生活習慣病の一次予防とともに進行を抑制するための食生活への支援も実施する必要があると考える.
がん予防食品として注目が集まったのは大豆やにんにくなどであり,米国で食品による抗がん効果に関する「デザイナーフーズプログラム」の報告がなされてからである5).特に前立腺がんは,欧米と比較してわが国の罹患率が低い理由のひとつとして,大豆の高摂取との関連が注目されている.なかでも大豆に含まれるフィトケミカル(植物性化学物質)の1つである大豆イソフラボンは,抗がん効果のみでなくエストロゲン作用をもつことから骨粗鬆症予防などでも注目を集め,マスメディアでも大きく取り上げられている.大豆イソフラボンについては,前立腺がんに罹患した患者の関心が高いことが推測され,その食生活を支援するためには,まず実際の摂取状況を明らかにする必要があると考える.その場合,患者の自己申告のみによる食事調査では,さまざまな情報を入手していることから生じる情報バイアスが問題となり,実際の摂取量との誤差が生じる可能性が否めない.より実態を把握するためには,生化学的指標によって実際の摂取量と比較することが推奨されている6).これまでわが国において,前立腺がん患者のがん罹患前後における食事内容変更の実態や,それらを生化学的指標による裏付けを用いて検討した調査は皆無である.
そこで本研究では,前立腺がん患者の食生活への支援を検討するために,診断後の食事変更の有無と変更内容やその情報源および変更への影響因子を調査した.また食事変更内容において大豆イソフラボンについては,食品によって含有量が異なるためフィトケミカル値(植物性化学物質)として摂取量が変化しているか,さらにそれらが実際に大豆イソフラボン血中濃度として反映されているかを分析することで自己申告の摂取量と比較分析した.そのことを通して,前立腺がんを抱えて生きる患者の食生活の実態を踏まえたうえでの看護支援について検討した.
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