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Ⅰ.はじめに
世界中の看護学者は,第一に,看護は人間科学である;第二に,人間は生物-心理-社会-精神的な存在であり,かつ文化的な存在である;第三に,人間の健康を最高度に増進させることは倫理的,社会的義務である,という3つの基本点において一致した考えをもっています.
人間の全体性(whole person)に焦点を合わせることは,看護では目新しいことではありません.これはFlorence Nightingaleから引き継がれてきた遺産の一部です.Nightingaleはトータルな個人(と家族)のウエルビーイングに,健全な環境を創り出すことと看護の―すなわち,個人と家族の健康とwell-beingの増進をはかる役割ですが―発展に深い関心を示しています.この遺産に基づいて,看護は健康と人全体(wholeness)両方の増進を第一義的な関心として,かかわり続けてきました.このかかわりは,全体性としての健康とは何か,それはどのように研究できるだろうか,あるいはどのように増進できるだろうかといった点で見方に相違があるにせよ,看護科学の諸文献のなかでは確認されております.このように,看護において現在なされている議論は,人全体の重要性,あるいは卓越性についての議論ではなく,その神秘性についてと,どの概念枠組みが人全体に関する知識の開発を支えてくれるだろうか,ということについてなのです.知識を開発しようとしている私たちの試みには,本来人全体についての私たちの理解に与える文化的な影響の探求と,人の全体性を増進していくための看護の接近方法の同定が伴っています.
この探求を進めるためには,生物学的,心理社会的,文化的存在としての人間存在の複雑で多次元的な本質を認めることが不可欠です.人間の生物学的,心理社会的側面はもうずっと以前から受け入れられ,看護ケアの概念枠組みのなかへ統合されてきています.スピリチュアルな側面,文化的側面は十分に認識されてきていますが,こうした領域にかかわる知識や実践は,依然として限られています.それにもかかわらず,職能団体(ICN)も規制団体(JCAHO)もスピリチュアルケアを看護実践のなかへ統合するよう,奨励しています.JCAHO(病院設置基準委員会と組織の合同委員会)は,現在,国際的に機能していますが,すべての患者にスピリチュアルケアが提供されるよう要請しています.ICN(国際看護婦協会)(1973)は,ナースは各個人の価値,習慣,スピリチュアルな信念が尊重される環境を増進していくべきであると述べています.
スピリチュアル・ニーズに関してアセスメントし,介入するのは看護の責任です.しかしながら,ナースたちがあまり教育と訓練上の準備ができていないと感じている実践領域です.事実,すべてのナースが,ナースはスピリチュアルケアができる,あるいは当然するべきであると考えているわけではないのです.合衆国で186人の実践に携わっているRN(正看護婦)を対象に行ったある研究では,(回答者の)97%がナースは患者のスピリチュアルケアに取り組むべきだと信じているけれども,実際にそれをするための教育と訓練上の準備ができていると感じているのは,たったの66%にすぎません(Treloar, 1999).そのうえ,現在の職員配置パターンは,ナースを身体的あるいは心理社会的ニーズに対するケアで精一杯な状態においているのであって,いわんやスピリチュアルケアをする状態ではないのです.しかし,看護の理論家や教育者たちが自分の役割を果たし,ナースたちがケアに関してスピリチュアルな側面について十分な教育を受けるならば,スピリチュアルケアは看護実践の統合された部分となってくることが可能だし,また,そのために多くの時間が余分に必要になるということはないのだと,文献などでは論じられています(Oldnall, 1996).
本日,この学会では,看護実践はいかにすれば人間のスピリチュアルな癒しを増進していくことができるか,ということについて考えていく予定です.スピリチュアリティと人としての全体性(human wholeness)の概念と,こうした概念に関連した看護診断について考察することを通して,この作業を進めていくつもりです.最後に,結合性の概念を私たちの知識の基盤や実践に関連づけて考察してしめくくりたいと思います.看護,言い換えれば人間のスピリチュアルな次元と,この領域におけるアセスメントと介入における看護の役割について,みなさんと一緒に考える機会をもてることを歓迎します.
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