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Ⅰ.はじめに
なぜ,「事例研究が必要」なのだろうか.
事例研究とは,1事例または少数事例について,各事例の個別性を尊重し,その個性を研究していく方法であるといわれている1).事例研究は,まさに「今,ここで」の直接的な探究であり,看護現場にいる看護者から湧き出てくる探究心から始まる看護そのものである.1つひとつの出来事,事例を大切に分析することの積み重ねが,事例研究を価値あるものとして発展させることができる.
また一方で,看護現場では多くの実践事例を事例報告としてまとめる機会も多くある.看護実践者が提示する現場の事例報告は,多くの情報を満載した実践知であり,埋もれさせてはいけない宝の山である.このような事例報告は,「事例研究」へ取り組むための第1のステップとして位置づけられるのではないだろうか.1事例の個別性をとらえ,実践知としてその事象をまとめる事例報告は,次なるステップへの大きな足がかりとなるに違いない.
さらに,実践知は看護実践事例の積み重ねのなかで表現され,共有されるものでなければならない.そこで,第2のステップは,事例検討会の取り組みに注目したい.事例検討会では,現象を複眼的にとらえ,組み立てていく思考が求められている2)ことから,さらに一歩,研究的な取り組みへと近づくことができるであろう.
そして,第3のステップが「事例研究」である.事例研究は,事例報告や事例検討会から湧き出てきた疑問,関心を見逃さず大切にする.その疑問や関心こそが,現場からしか発信できない事例研究の取り組みの出発点となり,研究に必要な重要なリサーチクエスチョンを導き出すことができるのである.
本稿では,事例研究の位置づけを明確にしたうえで,現場でなぜ事例研究が必要なのかを考察する.「研究をする」ということは,「よりよい看護をすること」につながるものである.慢性腎臓病(chronic kidney disease; CKD)の看護実践に日々携わっている看護者にとっての「事例研究」の意味もそこにあるであろう.
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