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今から10年前、国際協力機構(JICA)の専門家としてカザフスタン共和国セミパラチンスク地域に派遣され、医療改善計画プロジェクトに携わった経験がある。テーマは何でもいいのでセミパラチンスクの看護師に講義をしてほしいと派遣前に依頼を受け、迷わず、その当時、日本の看護師のニーズが高かった看護倫理をテーマに選び、タイトルを「倫理綱領と看護専門職(Code of Ethics and Nursing Profession)」とした。しかし、講義を始めてすぐに、テーマ設定に失敗したと気づいた。セミパラチンスクの看護師は看護倫理にあまり関心を示さなかった。それはなぜなのか。
カザフスタンで看護師免許を取得するためには、中学校卒業後4年間、もしくは高等学校卒業後3年間、看護学校で学ぶ必要がある。その後高等教育を受けるためには、首都のアスタナに1校しかない看護大学に編入し、さらに3年間学んだ後、看護学士を取得するしか道がない。厳しい社会・経済状況のもと、地方に暮らすおおかたの看護師にとってはアスタナの大学に通うのは無理なので、高等教育を受けたいと思う優秀な人材は、地方にも存在する医科大学に編入し、3年間で医師となる道を選ぶしかない。その結果、優秀な人材は看護師として残らず、皆医師になってしまうことになる。このような看護教育システムが原因となって、カザフスタンの看護師は自律した専門職とはみなされておらず、医師に従属して業務を遂行する職業という認識が一般的であった。そのために、看護師は自律的判断に不可欠な看護倫理を必要としていなかったのである。一方、当時の日本の看護師が看護倫理に高い関心と重要性を感じていたのは、日本の看護が専門職として発展してきた証であった。
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